決意する
「……とはいえ、やっぱりよく分からないな」
一度は応募しようかと思ったが、さすがに「甘い言葉を囁く」みたいな仕事をいきなり始めるのは不安がある。
そこで、俺はもう少し恋人代行について調べてみることにした。
検索サイトに「恋人代行」と入力すると、予想以上に多くの情報が出てきた。
──「恋人代行とは?」
──「初めて利用する方へ」
──「おすすめ恋人代行ランキング」
この世界では、どうやら恋人代行は普通に受け入れられているサービスらしい。
いくつかのサイトを見てみると、恋人代行の仕事内容が詳しく説明されていた。
・疑似デートの提供(レストラン、ショッピング、映画など)
・お客様の希望に沿った「理想の恋人」の演出
・相談役や話し相手としてのサポート
・甘い言葉や特別な時間の提供(ただし接触禁止)
「……なるほどな」
思ったよりも健全な仕事らしい。少なくとも、変な裏のある仕事ではなさそうだ。
さらに、恋人代行の利用者のレビューも見てみる。
『仕事ばかりで恋愛ができなかったので、恋人代行を試しました。理想の彼氏のように接してもらえて幸せでした』
『初めて男性とデートしました。おかげで自信がついた気がします』
『すごく優しくて、安心できました。こんな恋人がいたらいいのにな……』
──つまり、この世界の女性は「恋愛経験を積むために」恋人代行を使うことが多い、ということか。
確かに、貞操観念が逆転しているこの世界では、女性が恋愛の主導権を握る。
だが、だからこそ「男性と付き合ったことがない」女性も多いのだろう。
納得がいった。
それなら……俺でもやれるかもしれない。
試しに応募する
俺は求人サイトに戻り、「恋人代行サービス」の募集ページを開いた。
企業名は「エクセレンス・パートナー」。どうやら大手の恋人代行サービス会社らしい。
【募集要項】
・18歳以上の健康な男性
・誠実で清潔感のある方
・お客様に心地よい時間を提供できる方
・経験不問(研修あり)
「……思ったより、ちゃんとしてるな」
ふざけた求人かと思ったが、求められている条件は意外と普通だ。
仕事内容も明確に書かれているし、応募の流れも整っている。
「試しに応募してみるか……」
俺は、軽い気持ちで応募フォームを入力し、送信ボタンを押した。
それから数時間後──
スマホの通知が鳴った。
『エクセレンス・パートナー 採用担当より』
「もう返信きたのか?」
恐る恐る開いてみると──
『天城透様、書類選考の結果、面接に進んでいただくこととなりました。面接の日程を調整させていただきますので、ご都合の良い日時をお知らせください』
正直、軽い気持ちで応募しただけだったが、まさかこんなに早く返事が来るとは思わなかった。
「そんなに男手が足りてないのか……?」
まあ、考えてみればこの世界では男の数が圧倒的に少ないんだから、求人が出ていても応募する男自体が少ないんだろう。
何はともあれ、俺は 翌日に面接を受けることにした。
面接──しっかりした企業だった
翌日、俺は指定されたオフィスビルへ向かった。
想像していたのは、どこか怪しげな会社だった。
だけど、実際に来てみると、そこは都会の中心にある普通のオフィスビルで、エントランスも清潔感があり、受付スタッフまでいる。
エレベーターで指定された階に上がると、さらに驚いた。
──普通の企業のように、オフィス内は整然としている。
受付にいる女性スタッフは落ち着いた笑顔で迎え入れてくれたし、社内にはスーツ姿の女性たちが働いている。
「……思ったより、ちゃんとした会社なんだな」
俺は案内された会議室で、採用担当の女性と向かい合った。
「天城透さんですね。本日はお越しいただきありがとうございます」
目の前に座るのは、落ち着いた雰囲気の女性。30代前半くらいだろうか、シンプルなスーツに身を包み、知的な雰囲気を漂わせている。
「はい。よろしくお願いします」
「まず、当社の恋人代行サービスについてご説明しますね」
採用担当者は、端末を操作しながら、しっかりとした口調で説明を始めた。
「当社は創業15年の恋人代行サービス会社で、業界の中でも信頼性の高い企業です。お客様のご要望に応じた『理想の恋人体験』を提供し、プライバシー保護にも細心の注意を払っています」
「……意外と歴史が長いんですね」
「はい。近年は特に需要が高まっており、予約がすぐに埋まってしまう状況です。そのため、新たなスタッフを募集しております」
──思った以上に、ちゃんとした企業だ。
恋人代行なんて、もっと適当な業界かと思っていたが、オフィスの雰囲気も、説明も、しっかりしている。
それに、「プライバシー保護」や「信頼性」を強調しているあたり、変な仕事ではないことが伝わってくる。
「天城さんには、研修を受けた後、最初の案件を担当していただくことになります」
「なるほど……」
「では、最終的にご本人の意思を確認したいのですが──この仕事、やってみる気はありますか?」
俺は一瞬、考えた。
でも、もう迷う理由はない。
「……やります」
──こうして、俺は 恋人代行の仕事を始めることになった。