表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

逆転している

ニュースの「男女比1:5」「男性は貴重な存在」── その言葉を聞いた時、俺はようやく違和感の正体をはっきりと理解した。


 この世界は、男が圧倒的に少ない。


 だから、街を歩いているのは女性ばかりだった。だから、カフェで出会ったスーツ姿の女性も、店員も、妙に俺に対して優しかった。


 でも、それだけじゃない。男女の比率が違うだけなら、もっと普通の世界に近いはずだ。


 決定的に違うのは、この世界の「常識」だ。


 


 ニュースの続きをぼんやりと聞きながら、コーヒーを飲んでいると驚愕な事実に気づいた。


 『男性の安全確保のため、ナイトレジャーエリアでの警備を強化』

 

 『新たなハラスメント防止条例が施行。女性による執拗なアプローチには厳罰も』

 

 『企業は男性社員の健康とストレス管理を徹底し、過重労働を防ぐこと』


 ……なんだ、この違和感の塊みたいなニュースは。


 まるで、男が「守られるべき存在」みたいな扱いを受けている。


 俺がいた世界では、どちらかというと女性の方がそういう保護を受ける側だった。でも、この世界では真逆だ。


 SNSを開いてみても、驚くべき投稿ばかりが目に入る。


『彼氏が夜道を歩くなんて信じられない。危ないから送り迎えしてあげなきゃ』

『男友達が残業してるって聞いて怒りが止まらない! 会社はもっと男性のケアを考えるべき』

『うちの弟が通学中にナンパされて怖かったって……男の子を一人で歩かせるのは本当に危険だよね』


 もはやカルチャーショックを通り越して、俺の中の「常識」が根底から崩れるような感覚に襲われた。



 さらに調べてみると、この社会の構造も俺のいた世界とはまったく違っていた。


 女性が社会の主導権を握り、政治、経済、企業のトップのほとんどが女性。


 「男女平等」という言葉は存在するけれど、実態は女性優位の社会で、男性はどちらかというと 「大切にされるが、積極的に社会で活躍することは求められない」 立場だった。


 就職情報サイトを開くと、違いがさらにはっきりする。


『男性歓迎! 負担の少ない働き方が可能!』

『男性社員専用の休憩スペースあり! ストレスケアを重視』

『男性の残業ゼロを推進! 仕事よりもプライベートを大切に』


 働く女性たちの声も見つかった。


『男性に家にいてほしいって思うのは私だけ? 私がバリバリ働くから、家庭を支えてほしい』

『彼氏がフルタイムで働きたいって言うんだけど、正直ちょっと不安。男性がストレス抱えるのって良くないし……』


 つまり、この世界では 「男性は積極的に社会進出しなくてもいい」という価値観が浸透している ということだ。


 そして、もうひとつ──




 ここまで来て、俺はあることに気づいた。


 ──この世界、男の貞操がめちゃくちゃ重視されている。


 試しに「男性の恋愛事情」について検索してみると、信じられないような記事が山ほど出てきた。


『男性は慎重に恋人を選ぶべき。安易な交際は危険』

『貞操観念のしっかりした男性は好感度が高い! 軽率な関係は敬遠されがち』

『女性側が誠実さを証明するために「交際申請」を提出する文化も』


 ……いや、待てよ。


 つまり、ここでは「男が簡単に恋愛しないのが美徳」ってことか?


 実際、掲示板の恋愛相談スレを覗いてみると、こんな書き込みが並んでいた。


『彼に好きって伝えたら、もっとお互いを知ってからって言われた……誠実な人で嬉しいけど、どうしたら振り向いてもらえる?』

『アプローチしてる男性に「付き合うなら結婚前提で」って言われた。これって脈アリ?』

『好きな人にデートに誘ってもらう方法を教えてください……男性から誘ってくれることって少ないよね』


 ──完全に逆だ。


 俺のいた世界では、どちらかというと男が女性にアプローチして、女性が選ぶ側に回ることが多かった。でも、ここでは 「男性が選ぶ側」 になっている。


 しかも、「貞操観念がしっかりしている男性がモテる」なんて、俺の世界と完全に逆の価値観だ。


 だから、女性たちは「男に振り向いてもらおう」と必死になり、アプローチに積極的なのか……?


確信──ここは、貞操観念が逆転した世界だ


 街を歩けば、スーツを着て颯爽と歩くキャリアウーマンが、スーツ姿の男に「今度、食事でもどう?」と声をかける。


 店では、店員の女性が「よかったらまた来てね」と 男性客に優しく微笑みながら手を振る。


 広告には「誠実な男性は素敵!」と書かれ、掲示板では「どうすれば好きな男性に選んでもらえるか」が議論されている。


 俺は、異世界に来た。

 しかも、男女の価値観が真逆になった世界に。


 ──この事実に、ようやく頭が追いついた。


 ……さて、どうする?


 ここでの生き方を考えなきゃならない。


 この世界で、男として。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ