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透の大学生活

俺が通っているのは、首都圏にある総合大学。

 学部数も多く、キャンパスも広い、いわゆる「普通の大学」だ。


 ──ただし、俺が元々いた世界から見たら「普通」とは言い難い。


 男子と女子の比率は、1:5。

 大学の構内を歩いても、見渡す限り女子ばかり。

 少数派の男子は、嫌でも目立つ。


 だが、それが「楽な大学生活」に繋がるわけではない。

 むしろ、この世界の男子大学生は、社会の中でも特に独特な立ち位置にいる。


 講義室に入ると、当然のように女子だらけ。

 前も後ろも、座っているのはほぼ女性。

 男子は、端の席か、後方に固まっていることが多い。


 俺も、なるべく目立たない場所を選んで席に着く。

 講義が始まると、教室内は静かになり、教授の声だけが響く。

 

 ──だが、俺は時々、視線を感じることがある。


 特に何をしたわけでもない。

 ただ座っているだけで、ふとした拍子に周囲の視線がこちらに向けられる。


 (やっぱり、男は珍しいのか……?)


 そんなことを考えながら、俺は淡々とノートを取る。

 女子の多い環境には慣れたつもりだったが、完全に意識しないのは難しい。


 この大学にいる男子学生は、たった二種類に分類できる。


① 女子に高圧的な男たち

「男のほうが貴重だから、選ぶのはこっち」と勘違いしている場合などが当てはまり女子を下に見ているが、実際には少しでも自分が否定されると拗ねているのをよく大学内で見かける。また彼らの周りには常に女子がいるが、大抵はうまくいかずにトラブルを起こしている。


② 女子を拒絶する男たち

「どうせモノ扱いするんだろ?」と極端に警戒する。過去女性にトラウマを植え付けられた男性に多い。家族内に姉や妹がいると幼少期のうちに性的暴行をうけている事例が一定数存在しておりそういった男性は女性を明確に毛嫌いしている。話しかけられても冷たい態度を取るか、無視する。必要最低限の会話しかしないため、女子との関わりを極力避けている、などである。


 ──俺は、そのどちらにも属していない。


 今現在、大学2年生。

 学費と生活費を稼ぐために恋人代行をしているが、ギリギリの生活を送っている。


 授業が終わればすぐにバイト。

 サークル活動や、大学生らしい遊びとは無縁だ。貞操観念が逆転した世界にきてしまったがここは元の世界と同じだった。


 女子に対しても、積極的に関わることはない。

 かといって、拒絶もしない。

 話しかけられれば普通に返すし、必要なときは会話もする。

 ただ、それだけのことだ。


 「普通に過ごすことが一番楽だ。」


 この世界では、男は希少だ。

 だからこそ、「選ばれる側」として勘違いしている奴らもいるし、女子を警戒しすぎて何も話さない奴らもいる。

 でも、俺はどちらでもない。


 ──ただ、普通にしていたいだけ。


 

 

 大学の講義室に入り、後方の席を選ぶ。

 大きなスクリーンが見える位置に座り、ノートとペンを取り出した。

 周囲を見渡すと、相変わらず女子ばかりの教室。

 ──いつもの光景だ。


 だが、この日は少し違った。

 教室内のざわつきが、普段よりも大きい。

 何かあったのかと視線を巡らせると、前方の席に見慣れた顔があった。


 篠宮紗奈。

 この大学に通う、アイドル。


 紗奈は芸能活動をしながら大学に通っていることで有名だ。

 テレビで見ない日はないほどの売れっ子で、特に女性人気が高い。

 この大学でも、彼女を憧れの的としている女子学生は多い。


 だからこそ、彼女が授業に出るだけで、周囲の女子たちはざわつく。


 「紗奈ちゃん、今日この授業出るんだ!」

 

 「実物やっぱり可愛い……」

 

 「あの服、どこのブランドだろ?」


 そんな小さな声が、教室のあちこちから聞こえてくる。

 講義が始まれば静かになるが、紗奈がいるだけで教室の空気が普段と違うのは明らかだった。


 ──だが、俺にとっては関係のない話だ。


 席に座り、いつも通りノートを取り始める。

 紗奈のことはテレビやポスターで見たことはあるが、それ以上でもそれ以下でもない。

 アイドルが大学に通っているのは珍しいが、俺の生活に影響があるわけではないし、関わることもないだろう。


 授業が始まり、教授の声が教室に響く。

 俺は淡々と講義をノートにまとめながら、時折、周囲の様子が気になった。


 紗奈がいるだけで、教室の空気が微妙に違う。

 周囲の学生たちが、ちらちらと彼女を気にしている。

 特に女子学生は、興味津々といった様子だ。


 しかし、ふとした瞬間、紗奈が少しだけ視線を巡らせたのが見えた。

 まるで、教室内の反応を確かめるように。


 ──そして、一瞬だけ、俺と目が合った。


 ……いや、厳密には、俺が紗奈を見ていたわけではない。

 たまたま顔を上げたときに、視線が交差しただけだ。

 俺はすぐにノートに視線を戻し、何事もなかったかのようにペンを走らせる。


 だが、その一瞬の間に、紗奈の表情が微かに変わったように見えた。





 ――――――――――――――――――――――――――



 


 昼休み、学食のテーブルに座りながら、適当に食事を済ませていた。

 周囲の席では、女子学生たちがあれこれと話している。

 盗み聞きするつもりはなかったが周囲が静かだったからか、隣のグループの会話がふと耳に入ってきた。


 「紗奈ちゃんの恋愛アドバイスの連載、読んだ?」


 ──恋愛アドバイス?


 不意に出てきた単語に、俺は軽く眉をひそめた。

 隣の女子たちは、楽しげに話を続けている。


 

 「やっぱり、モテる人の意見って違うよね!」

 「アイドルとしていろんな経験をしてるからこそ、説得力があるっていうか!」

 「私もあのコラム読んで、次のデートの作戦立てたんだ~!」


 ──へー、そんな企画をやってるのか。


 別に興味はないが、紗奈が大学内でこれだけ話題になるのは珍しくない。

 授業に出るだけで注目されるくらいだし、彼女の発言が影響力を持つのも当然か。


 俺はそう思いながらも、なんとなく耳を傾けた。


 すると、別の女子が少し違うトーンで言った。


 「でもさ、紗奈ちゃんって、本当に恋愛経験豊富なのかな?」

 「テレビとか雑誌ではモテモテっぽく見えるけど、実際のとこは謎だよね?」


 その言葉に、周囲の女子たちが微妙な反応を見せる。


 「うーん……確かにね。でも、そこはアイドルのプライベートだから、わざわざ語らないんじゃない?」

 「それに、恋愛アドバイスって経験がなくても理論で語れることもあるでしょ?」


 ──なるほど。


 確かに、芸能人だからといって、プライベートの恋愛事情まで公にするとは限らない。

 むしろ、アイドルならそういう部分は隠すものかもしれない。


 とはいえ、紗奈の周囲の評判を考えると、「モテモテの恋愛経験豊富な女の子」 という印象を持たれているのも事実。

 だからこそ、彼女の言葉に説得力があるように思われているんだろう。


 

 俺はスプーンを動かしながら、ふと考えた。


 もし、紗奈が実際には恋愛経験ゼロだったら?


 そんな状態で恋愛アドバイスを続けるのは、けっこう大変なんじゃないか?

 理論だけで話を続けるのも限界があるし、質問の内容次第ではボロが出ることもあるかもしれない。


 ──まあ、俺には関係のない話か。


 俺は食事を終え、トレイを片付けるために席を立った。


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