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いまいるところ
とたんに、ヒコイチはあたりの景色をいまようやく目にいれたようにな気になる。
いつのまにかヒコイチは、平らなところにいて、むこうには水車のまわる小屋があった。
ちいさいがしっかりしてそうなつくりの家たちと、かなりの広さの水田。
あぜ道には青い草があり、田んぼの水が陽にてらされてひかり、集落のまわりは木々にかこまれたようになっている。みわたしたかぎり、山合といっても山と山の間がひろいようで、ひあたりはよく、山すそはずいぶんむこうのほうにある。
おれは、山を・・・、 ―― 。
そうか、いちど下ったか
山と山のあいだの細い道をくだり、ひらけた山合に、そのちいさな集落があるのがみえて、川があるのもみえ、田んぼが水をはりひかっているのがみえたから、あしをむけたのだ。
稲のまだ植えられていない田をながめながら、むこうの家々につづく道をゆこうとしたときに、あの、鈴のかすかな音をきいた。 ―― はずだ。