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かえされた鞠(まり)
「かえして」
後ろにいたこどもが、まだ顔をしかめたまま、ヒコイチにまた言った。
ああ、とからだのむきをかえてしっかりとむきあい鞠をわたすと、ちいさな両手でそれをうけたこどもが、なんだかほっとしたように息をついた。
「あんた、いいほうのひとね」
「はあ?なんだかえらそうな口をきくガキだな」
「あんただってガキでしょ」
「あのなあ、おれアじぶんのくいぶち稼げるんだぜ?お嬢ちゃんは鞠で遊んでても食うのにこまったこたアねえだろ?」
こどものきている赤い着物は布は古そうだが仕立て直してあるようだった。母親の着物をつかってあるのかもしれない。それに、草履も足もきれいだし、鞠は絹糸で模様をまきつけて縫う、手の込んだものだった。
「鞠で遊んでなんかいないもの。この鞠はね、」
「オチョウ、どうしたんだい?」
こどものうしろのほうから、よくとおる女の声がした。