すえられた《番神様》
ここで終わりです
― 旅 ―
ヒコイチは、山のふもとの《番神様》の前に立っていた。
「・・・えっと・・・」
そうだ。『親分』だとか『組』だとかうるさいことがつづいたので、こんどはすこし山の奥のほうへ行ってみようとおもったのだ。
「それで・・・?ここか・・・」
山に続く細い道をみあげてから、その入り口になるところにたつ《番神様》の石の像をみる。
古そうだが、しっかり作られた木のお社におさめられた《番神様》は両側に狛犬のようだが、みたこともない細いからだの獣と太いからだの獣に守られている。
「へえ、めずらしい《番神様》だな」
おまけにその獣は、鞠にのっているようだ。
ふ と。
なぜか、あざやかな色の糸でつくられた鞠がおもいうかぶ。
いや、ヒコイチは鞠であそんだことなんてなかった。
なんだか変なかんじがして首のうしろをかく。べつに寒気はしない。
もういちど《番神様》をみて、そのまえに膝をつき、しっかりと両手をあわせた。
立ち上がって山への道をたどりだすと、なにか聞こえた気がしてふりかえる。
《番神様》のお社の屋根にとまった鳥が、ちち、と鳴いてとびたった。
鈴の音のようにきこえたのは気のせいか。
そろそろ、腰をおちつける先をさがしてみるかと、急にヒコイチはおもいつく。
小屋暮らしだったが、じいさんと『生きた』あのときの暮らしがなんだか恋しくなった。
「 まずは、水を張った田んぼでもみつけて、田植えでもするかあ 」
だれにというでもなく、笠をあげて空にいってみる。
ヒコイチの旅暮らしは、どうやらもうすぐ
―― おわりになりそうだ。
おつきあいくださった方、目をとめてくださった方、ありがとうございました!




