喰いやすく
足のしたにあるよどんだあおい水をみていて、すこしずつ思い出す。
「 山・・・で。 ・・・なんだか、糸が・・・蜘蛛の糸があるくたびにつぎからつぎにかかってきて・・・」
「そこでもう捕まっておったのよ。だが、その糸を『どけて』寺にかくまい、そのまま『かえして』やろうと思ったのだが、《水神》が、それは許さん、とまた手をつけてきおった」
男の声はわらっていて、そういやサゲンがおまえのことをほめていたぞ、とおもしろそうにつけたした。
「・・・『さげん』?」
ゲンさんのことか。
ということは、うしろのこの男は、きのう帰ってこなかったウゴウだろうか。
「あいつがヒトを気にいるなど、めずらしいことだ。まさかいっしょに飯まで食うとはな」
言ってうなるようにウゴウが荒い鼻息をだしたとき、ぐい、とヒコイチの片腕がひっぱられた。つづいて腕と逆になる足がひかれ、動かなかった頭がとつぜん上にひきあげられた。
「ああそうか。ひきちぎった方が、喰いやすいか」
うしろからウゴウのわらいごえがあがり、こんどは逆の腕が引かれ始めた。
おまけにまきついた糸が手足の肉をしめつけはじめる。
か え せ
あしもとの水の中から、ひとの声のような音がそう命じた。




