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言ったのに
ひんやりとした風が足もとから上がり、下にみえる『あお』が水であることに、ようやくおもいあたる。
なんで足の下が水だよ?
それをみおろしたまま右肩に寄り曲がった顔をあげようとして、うごかないことがわかった。
「 もっと 気をつけてって、 いったのに 」
「っ!?お、オチョウちゃんか?」
声がした方に目だけむけると、水をみおろすむこうの大岩の上にオチョウが立って、ヒコイチをにらんでいた。そばには母親のオトイもたち、頬に片手をあて、思案気に首をかしげた。
「いちどはうまくいくかとおもったんですがねえ。《糸》も《はずし》て、お《寺》にも行ってもらったんで」
ヒコイチはオトイの指があのとき、《蜘蛛の糸》をはずしてくれたのをおもいだす。
光った糸を ―― 。
「・・・糸が・・・」
そう、糸だ。




