18/25
もってゆけ
― 朝 ―
寝るときに、昔の上等な女の着物でこしらえたような薄い布団をかけられ、遠慮したのにそれを掛けられたとたん、気をうしなうようにねむりこんでしまった。目が覚めるとそんな布団はかけられておらず、だれかの気古した半纏のようなものがかけられていた。
陽はのぼる前だったが、ゲンは起きてもうどこかへ行ったようで、きのう炊いた飯がにぎられて竹の皮につつまれ、《もってゆけ》と書かれた紙がおかれていた。
ありがたくあたまをさげ、いただくことにする。
そとはまだ暗いが、あたりのようすはわかるほどで、あとはあかるくなってゆくだけだ。
前の晩に、おれは朝いないだろうから気にするな、といわれている。
本堂の中はのぞかず、外から頭をさげて寺をあとにした。
ちりちり ちりちり
ちりちり ちりちり
どこからか、ちいさくたよりない音がしている。
ちりちり ちりちり
ちりちり ちりちりちり
ああ どこかできいたような




