幻術つかい
「・・・い、いまのは・・・?」
「ああ、ときどきああいうのが寺に文句をつけにくるんで、うるさくてかなわん」
「『ああいう』・・・?いや、あのこども、小さくなっちまって、消えちまって」
「ああ、幻術つかいだからな」
「『幻術つかい』!? ああ、・・・そういやあ、船で異国からくるヤツってのは、みんなおかしな幻術をつかうってのは、港の漁師にきいたことあるが・・・」たしかにいまのこどもの目も、川のようなあおい色をしていた。
「そうよ。この世にはヒコがまだみたこともないような者たちがさくさんいるってことだから、いまのことは気にするな。ああいう困ったのをあいてにするのも、慣れよ、慣れ」
どうやらゲンにかかれば、すべてその言葉で片付けられるようだった。
ふしぎなことにヒコイチも、きゅうにいまのことが気にならなくなる。
かわりにきゅうに、まだ腰にさげていたかごを思い出し、のぞいてみたら釣った魚が二匹しかいない。
落としてきたかとあたりをうかがうよう道をもどろうとすると、おいヒコよ、と飯炊き用の釜をもつゲンによびとめられた。
「魚が一匹へってるだろうが気にするな。さっきのが、くやしまぎれに『かわり』にとったんだろう」
「・・・ああ。『幻術』でってことか。いや、まったく気づけなかったぜ」
街中であうスリには気づけるのだが。
ゲンはまた、「慣れよ、慣れ」とあっさりかたづけ、釜をヒコイチにほうりなげた。




