川をみつける
薪はかなり積みあがり、風呂につかう釜もあらいあげて風呂用につくられたかまどの上におき、天秤棒についた桶をかついで川へとむかった。
川は、田んぼへそそぐ水をながしている小川とは別で、山をのぼってとなりの山とのあいだにあると教えられた。
はじめてはいった山なのに、なんだかなじみがあるような気がして、ヒコイチはひさしぶりに、山を歩くのが楽しかった。
よく考えれば、郷をはなれてから、山は通り抜けるだけのところになっていた。山道などとくに、明るいうちに足早にたどっただけだ。
足元につもった落ち葉や枝をとおし、やわらかい土がかんじられた。石がうもれ、足場がわるいところをそばにはえた木をつかんでのぼる。獣道をみつけ、そこをたどった。
湿った匂いがして、陽がとどかない斜面をくだる。
むかし、これと同じようなところを歩いて、のぼって、くだって、そうしてずっと暮らしていたのをおもいだし、死んだじいさんのことをおもいだしていた。
ふいに水の流れるおとがとどき、川がちかいことがしれた。
「ああ・・・」
おもわず声がもれるほどの、ひろい河原となみなみとしたおおきな川があった。
こんなところにこんな川があるのか・・・
あおく深そうな水がゆうゆうとながれつづけ、むこうのほうで群れになった大岩にあたり、どうどうと音をたて、しぶきをあげている。その音のおおきさからして、岩に当たるだけではなく、そこで段差になり水がおちているのがわかる。




