よび名
なかなか大きくて立派な建物だ。
戸をくぐってすぐに広い土間があり、奥に台所がある。板の間があって続きの部屋も板の間だ。
「囲炉裏がねえから、夜はすこし冷える。火鉢がそこにあるから、つかってくれ」
「いや、横になれればいいんで」
「まあそういうな。そのぶんこれから夜までしっかり働いてもらう」
「そりゃあたりまえだ。あ、おれは」
「名はきかぬ」
「・・・へ?」
「おれのことはゲンでいい。おまえはなんとよばれたい?」
「あー・・・ヒコで・・・」
「そうか、ヒコさん、ひと息ついたら裏で薪割りをたのむ。そのあとで、川まで水をくみにいってもらおう」
「いや、あと三つぐらいは先にいいつけておいてくれねえと、いちいちゲンさんにうかがいにいかなきゃならねえ。それじゃあめんどうでしょう。 あと、おれはゲンさんよりよっぽど年が下なんで、よびすててくれねえと落ち着かねえよ」
「そうかい。じゃあヒコ、そのあと釜に水をいれて外で風呂をととのえてくれ。 それと、川にいったときに、できれば魚を釣るかとるかしてくれれば、飯のたしになる」
「おうよ。まかせろってんだ」
ようやく、仕事らしいことをいいつけられて安心した。
「魚は何匹とりゃいい?あとどのくらい人がいるんだよ」
「ああ、あとひとりいるんだが・・・」
「ウゴウさまって人かい?」
「おう、・・・さてはオトイがくちにしたか。 ―― まあ、これできょうはウゴウはここにもどってこなくなったので、おれとヒコだけだ」
なんだかおかしそうにわらうゲンに背中をたたかれた。
「いてえ!」
ウゴウさまってのが、ここの坊さんか
ひさしぶりに、痛いとおもえるほどの力でたたかれた背をなで、顔をしかめながら旅装束をといたヒコイチは、すぐに仕事にとりかかった。




