黒い本堂
― 寺 ―
細い道には石が敷かれ、それが階段になってゆき山をすこしばかりのぼってゆくと、なにやら大岩であたって、ゆくてがさえぎられた。
「こっちだ、こっち」
目の見えない男はその岩をよけるように細くまがった脇の道へ先にゆく。
細くなった道の両側が竹林になり、道が平らになったと思ったら、先に門らしきものがみえた。高く細い石の柱が左右にたつもので、とびらはない。石の柱には、なにか文字のようなそうでないようなものがいくつも彫られていた。これはなにかと聞こうと思って、先をあるく男が見えないのだと思い出す。
迷いがないどころか、つもずくこともなく、さっさと先をゆく。
すぐに、山裾にみえていたあの屋根をもつ本堂があったが、門のほうをむいてはいなかった。斜め横からみたその建物は、ぜんぶがなんだか黒い。
焼けたわけじゃあ、ねえよなあ・・・
そこをすぎ、そばにある庵にあしをむけかけた男が、「そうか、いないのか」とつぶやいてとまる。
「ここで坊主をする男は、きょう出ていてな。だからといってこの庵をおまえに貸すわけにはいかん。ここには入らんでくれ。それと、本堂にもだ」
「へい、わかりました」
すぐにむきをかえ、奥にある庫裏であろう建物へむかう。




