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7 王立第2高等学校

 駅馬車を何度も乗り継いで初めて訪れた王国第2の都市は、まさに大都会だった。


 まず、人の多さに驚いた。立派な馬車駅を出て大通りに出た私は、てっきり今日は何かのお祭りだと考えていた。これが日常の風景だと気づくのは、数日経ってからのことだった。


 下宿は、王立第2高等学校の裏手にあるボロボロの安宿の一室だった。


 当時、王立高等学校に進学しているのは、ほとんどが貴族か大金持ちの平民の息子で、自宅や別荘から通学していた。私のように安宿に住む者はゼロに等しかった。


 安宿のおばさんは、私を我が子のように可愛がってくれた。時々食事をご馳走になった。



† † †



 王立第2高等学校の入学式。私は緊張した面持ちで荘厳な正門をくぐった。私のような着古した服を着ている者は誰もいなかった。


 私は、また貴族達にイジメられるのではないかと怯えた。しかし、幸いそんな雰囲気はなかった。


 法学科の学生には、学校から黒い法服のようなガウンが支給された。なにものにも染まらず、法にのみ従うという意味があるそうだ。


 私は、その黒のガウンに袖を通した。貴族や金持ちの豪華な服も、私の着古した服も、この黒のガウンが全てを包み隠した。法学科は、当時としては驚くほど自由で平等だった。


 王立第2高等学校では、歓喜と絶望の両方を経験した。


 私がまず歓喜したのは、膨大な書物を納める大図書館だ。


 王国一といわれた大図書館には、古今東西のありとあらゆる書物が納められていた。


 そして、王立第2高等学校の学生は、開架の書物だけでなく、地下深くの書庫にも自由に入ることができる権利が与えられていた。


 私は、暇さえあれば懐中魔法灯を片手に地下深くの書庫へ向かい、様々な書物を読み漁った。


 後に、私はこの書庫で勇者と魔王の過去の戦いに関する古文書と出会うことになる。


 私がもう一つ歓喜したのは、法学科の講義だ。第一線で研究を続ける教授が、その全てを学生に継承したいという意気込みで講義をしていた。


 講義は難解で教授は厳しかった。ついていくのがやっとだったが、その研ぎ澄まされた思索、正義の実現のために考え抜かれた学説に、私は深い感動をおぼえた。


 同時に、私は絶望した。法学科の周りの学生は、私から見て天才ばかりだった。


 私よりも遥かに早い時間で物事を理解し、私が思いもつかない素晴らしい考えを次々と発案する。そして、人格に優れ、運動神経も抜群な者がほとんどだった。


 この頃だ。自分がこの世界の主人公ではないということを思い知らされたのは。


 私の周りの天才達は、この世界に多大な影響を与えるに相応しい能力と人格を有していた。


 一方の私といえば、そこまでの能力も人格も持ち合わせていなかった。この世界の背景、モブ・脇役でしかないことを思い知った。


 それに気づいた当初は、まさに絶望という気分だった。


 そして、その気分に追い討ちをかけたのが、私の仕事の出来なさ具合だった。


 私は、生活費の足しにと考え、空き時間にいくつか小銭稼ぎの仕事をした。食堂や雑貨店の手伝い、馬車駅の清掃……いずれの仕事でも、私はほとんど役に立たなかった。


 私の短期記憶の欠陥がここで露呈したのだ。いずれの仕事でも、複数の注文や複数の口頭指示を暗記して対応することが求められたが、私には出来なかった。


 仕事を始めるときには、王立第2高等学校の優秀な学生さんが仕事に入ってくれたと喜んでくれたが、私の仕事の出来なさ具合が分かると、高等学校の学生のくせにと罵られた。


 私は逃げるように次々と仕事を辞めた。私は自信を失っていった。



† † †



 そんな私を救ってくれたのは、大図書館の司書の手伝いの仕事だった。


 大図書館の司書は、皆おおらかで、学生の私にとても優しくしてくれた。


 私は、教授や他の学生からの依頼を受け、書庫の書物を捜索する仕事をすることになった。


 日頃から大図書館の書庫に入り浸っていた私にはうってつけの仕事だった。


 私は受けた依頼を忘れないよう書き留めると、書庫に潜った。ベテランの司書が驚くほど早く、的確に資料を見つけることが出来た。単に依頼された書物だけでなく、役に立ちそうな関連書物も見つけ、教授等に喜ばれた。


 ちょうどその頃、初等学校時代の「ダメダメ君」が、凄腕の織物職人として町で有名になっているという話を、私は母親からの手紙で知った。


 人間には得手不得手(えてふえて)があるということを、私はようやく理解した。私は少しずつ自信を、やる気を取り戻していった。

続きは明日投稿予定です。

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