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27 森へ

 翌日、私は父親から実家の剣を借り、息子と実家を出発した。


「不器用なお前が剣を取るとはなあ。振り下ろしたときに足を切らないように気をつけろよ」


 父親が心配そうに私に言った。


 勇者一行と討伐部隊は、森の中の道を進んだ。事前の調査によれば、異様な魔力は森の川の上流から発せられているそうだ。


 私は、父親の言っていた「森の王」のことを思い出した。


 森の中の道では、不思議なことに、魔物はまったく現れなかった。


 あの思い出の橋のたもとまで来たところで、東方侯が言った。


「この森の魔物は臆病なようだな。この川沿いを一気に上流へ進もう」


「東方侯殿、一点だけ」


 私が東方侯に声を掛けた。あからさまに嫌そうな顔をする東方侯に、私は説明した。


「私はこの地域の出身です。この森の道は毎日のように利用していました。また、巡察使として各地の様々な森を見てきました」


「だからこそ分かるのですが、この森は特殊です。他の地域と違い、様々な種類の魔物がいて、非常に大型の魔物も数多く生息しています。町の者は、それが当たり前なので説明しなかったと思いますが」


 これは事実だ。私はこの森ほど多くの種類の魔物がいる森を見たことがなかったし、この森ほど大型の魔物が住む森も見たことがなかった。


「私は子どもの頃、ちょうどこの橋のところで川に引き込まれ、魔物に体を羽交い締めにされ、腕を喰われそうになったこともあります」


 本当は、自ら川に飛び込み、助かった後で私が魔物を抱き寄せ、魔物が慰めるように私の手を舐めてくれたのだが……私は怯えた顔で言った。


「魔物が大人しかった頃でそうなのです。だからこそ、この森の奥は永らく禁足地とされてきました。この森は危険です。恐ろしい森なのです!」


「どうか、くれぐれも魔物を刺激しないようにお願いいたします。私はまだ死にたくありません!」


 私は、東方侯の前に(ひざまず)き、すがりつくような格好で叫んだ。私の虚実織り交ぜた説明に、東方侯や側近の騎士達が息を呑むのが分かった。


「ふ、ふん。そのような弱気でどうする。とはいえ、ここは魔王の住む森。注意して進むとしよう」


 東方侯が周りをキョロキョロ見回しながら言った。これで、東方侯と側近の騎士達は、多少は自重してくれるだろう。


 息子は、私の意図を察したようで、私の芝居じみた説明と東方侯の動揺する姿を見て、笑いそうになるのを必死に(こら)えていた。



† † †



 息子が猟兵中隊長の幼なじみの兵士を助けて以降、猟兵中隊長は私に色々と話しかけてくれるようになっていた。


「この森はおかしい。明らかに何者かが魔物を統制している」


 森の中の川沿いを上流へ進みながら、猟兵中隊長が私に小さい声で言った。


 道から森の中へ入った途端、大型の魔物が複数現れたが、どの魔物も襲いかかって来なかった。敵意むき出しの表情で我々をジッと見つめるだけだった。


 我々が川沿いから離れようとすると、魔物達が威嚇してきた。魔物達は、我々を川の上流へと誘導しているようだった。


「魔物が何らかの統一的な意思の下に行動している。魔物を意のままに操れる存在がいるということだ。もしその存在が本気で魔物を統制して組織的な攻撃を行うことになれば……」


「まさに、魔王軍の誕生ですね」


 私が小声で答えた。猟兵中隊長は(うなず)くと、部下に警戒を厳とするよう指示した。


 我々は慎重に森の中を進んだ。



† † †



 森に入ってから3日目の朝。先行していた斥候兵から報告があった。


「この先に森が開けた場所を発見しました。その中央に、今まで見たこともない大木がありました」


「魔法使いである兵に確認したところ、恐ろしいほどの魔力がその大木から発せられているとのことです」


 幼なじみのエルフが、震える声で言った。


「ここからでも分かります。これは……こんな魔力は、魔王としか思えません」


 我々は、その森が開けた場所に向かって進んだ。


 その場所は、森の中に突然現れた。一つの町がすっぽり入るくらい大きな円形の場所で、一面に美しい草花が咲き乱れていた。


 そして、その中央には、息子の名前の由来となった木と同じ種類の木が1本立っていた。


 見たこともない大木で、森の木々の10倍はあるのではないかという高さだった。幹の太さも王宮の大広間がスッポリ入るくらいあるのではないかと思われた。


 我々は大木に向かって進んだ。


 大木の近くまで来ると、いつの間にか、大木の前に一人の少年が立っていた。


 見た目は王子や息子と同じくらいの年頃で、大昔の旅装に身を包み、右手に剣を持っていた。


 誰も、彼を単なる子どもだとは思わなかった。


 一種の神々しさを感じるその雰囲気に、魔法が苦手な私でも肌で感じる強力な魔力……


 誰もが瞬時に理解した。彼が魔王だと。

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