26 理由
息子は、自分の秘密を打ち明けることができてホッとしたのか、いつの間にか眠ってしまった。
私は、マットに仰向けになって、天井に目を向けた。
子どもの頃は怖かった人の顔に見えるシミが、今も変わらずこちらを向いていた。今見ると、不思議と全然怖くない。
魔王は、もしかしたらあのシミと同じなのではないか。単に人が怖がっているだけで、恐ろしい存在ではないのではないか。交渉の余地があるのではないのか。
魔王と対峙するのは息子なのだ。そうあって欲しい。もしそうでなければ、どんな手段を使ってでも息子を守る。私はそう決意した。
† † †
寝返りを打った私は、王が王子を勇者であると偽った理由について考えることにした。
『次の王』
『東方侯に先手を打つため』
『王子が勇者として魔王を倒さないといけない』
息子のこの言葉から何が推測されるのか。
話からすると、次期国王の座を王子と東方侯が争っており、勇者と魔王の戦いがその趨勢を決するということのようだ。
ただ、東方侯は国王の遠縁ではあるものの、王位継承権はないに等しい。
東方侯が王位に就く可能性があるとすれば、王子が薨去又は廃嫡され、若しくは王位継承権を放棄し、かつ東方侯が国王の長子である王女と結婚し、王女が女王に即位後、その共同君主として認められる場合だ。相当ハードルが高い。
勇者と魔王の戦いが、このハードルをクリアする鍵になるのだろうか。
私はふと歌劇と古文書の勇者の話を思い出した。
歌劇では、勇者である貴族が、魔王を倒した後、王女と結婚して国王となる。
これは、勇者として魔王を倒したという偉業を背景に、先程のハードルをクリアした例と言えるだろう。
一方、古文書では、勇者である平民が自らの命と引き換えに魔王を倒し、勇者の仲間であった貴族が王女と結婚して国王になった。
この場合、貴族に勇者として魔王を倒した偉業はなく、歌劇のケースよりもクリアするハードルは高いと言えそうだ。
もし、古文書が事実だとして、勇者の仲間であった貴族が、国王になるためのハードルを下げるにはどうしたらいいか。
色々な手はあるだろうが、一番手っ取り早いのは、平民である勇者の偉業、地位を「簒奪」することだろう。
つまり、勇者の仲間であった貴族が「自分が魔王を倒した真の勇者だ」と偽り、国王の座を手に入れていたとしたら……
私は戦慄した。東方侯は、自分が勇者であると偽って、自分が国王になる可能性を高めようとしていたのではないか。
そして、それを察知した国王が、先手を打って「王子が勇者である」ことを東方侯に伝えたのではないか。
もし、この推測が正しいとすれば、息子が勇者であること、魔王と勇者が一騎打ちになることを東方侯に知られるとマズイ。
おそらく東方侯は、王子が勇者であると公表されたことから、自分が勇者であると主張するのを諦めて、魔王討伐で少しでも手柄を立てることで、自分が王位に就く可能性を高めようしているはずだ。
しかし、息子が勇者であり、魔王と戦うのは勇者だけであると東方侯が知れば、勇者である息子と魔王を相討ちにさせ、あるいは魔王を倒した息子を暗殺し、自分が魔王にトドメをさしたように偽装して、自分が本当の勇者である、魔王を倒したのは自分であるなどと主張するのではないか。
そして、王子は勇者であると偽っていた、魔王との最後の戦いには関与していないなどと主張するのではないか。
先日の猟兵中隊長の「東方侯にはお気をつけください」という忠告は、実のところ、彼は息子が勇者であると知っていて、この危険性を暗に教えてくれたのではないか。
あくまでも可能性だが、息子の命に関わる大問題だ。気をつけなければ……
私は、スヤスヤと寝息をたてる息子の顔を見ながら、「息子を守る」ことを改めて決意した。
続きは明日投稿予定です。




