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25 決戦前夜

 勇者一行と討伐部隊は、ついに私の生まれ故郷の町に到着した。町で1泊して、明日から森に入ることになった。


 私と息子は、私の実家に泊まることにした。実家には私の両親と妹夫婦が来ていて、息子との再開を喜んでいたが、息子と一緒に王子が顔を出したので、とても驚いていた。


 王子が宿に戻った後、両親と妹は「こんな名誉なことはない」と大層喜んでいた。


 隣町の妻の両親や妻の妹夫婦も息子に会いたがっていたが、魔物襲撃の危険性があるため断念していた。私と息子は魔法便箋で妻や妻の両親達とやり取りをした。


 息子は魔法便箋に色々な絵を描いて皆を喜ばせていた。


 夕食後、父親は、私がこの家を出た日の前の夜と同じように囲炉裏の端に寝転んでいた。あのときよりも年を取った父親が、ふと思い出したように言った。


「大昔、俺の爺さんから聞いた話だが、あの森の奥深くには、とんでもなくデカイ大樹があるそうだ」


「その大樹は人語を解し、魔法を操るという。爺さんは、『森の王』と言っていたな」


「森の王……」


 私は(つぶや)いた。父親が笑いながら言った。


「真偽のほどは分からんし、今回の魔王騒動との関係も分からんがな。あの森の中の橋が架かってる川の上流だそうだ。とにかく気をつけるんだぞ」


「うん、ありがとう。お父さん」


 私は笑顔で答えた。



† † †



 夜。私が住んでいた頃に使っていた部屋で、息子が私のベッドに、私が床にマットを敷いて寝ていると、息子が寝返りを打ち私の方を向いた。


「ねえ、お父さん起きてる?」


「うん、起きてるよ。どうした、虫が出たか?」


「ううん。あのね、お父さんに言っておきたいことがあって……」


 少し躊躇(ためら)った後、息子が言った。


「実は僕、勇者なんだ」


「そうか……」


「お父さん、驚かないの?」


 息子が不思議そうに言った。私は笑いながら言った。


「何となく、そうかもしれないと思ってたからね。でも、どうして分かったんだい?」


「上手く説明出来ないんだけど、あのアザが首に出た日に、自分が勇者だって分かったんだ。あと、魔物は僕を襲わないってことも……」


 息子は頭を悩ませながら言った。


「そうか。それであの兵士を助けに行ったのか」


「うん」


 それから、息子は私に色々なことを話してくれた。


 魔王のいる場所が分かること、魔王も勇者のいる場所が分かること。


 魔王と勇者は一騎討ちで戦うことになること。


 王子に勇者の印はないこと。王から勇者として振る舞うことを強制され、王子は悩んでいたこと。


 魔王討伐の勅命の儀式の前夜、王子は泣きながら息子にそのことを告白し、息子も王子のその勇気に感銘を受けて泣きながら自分が勇者であると分かっていたことを告白したこと。


 息子は王子に「君こそが真の勇者だ」と言って(たた)え、「従者」として、そして「親友」として、「勇者」である王子を支えていくと誓ったこと。


 それを聞いた王子が号泣したこと……


「お父さんは、お前の行動を素晴らしく思う」


 私は心の底からそう言った。息子は顔を赤らめた。


「それにしても、どうして王様は王子様を勇者に仕立てようとしたんだ?」


 私が聞くと、息子が頭を掻きながら言った。


「ゴメン、王子様に教えてもらったんだけど、難しくて……」


「次の王がどうとか、東方侯に先手を打つためとか何とか……とにかく王子様が勇者として魔王を倒さないといけないんだって」


「そうか……」


 色々と次期国王の座を狙ってゴタゴタがあるようだ。


 この点は後で考えることにして、私は大事な話を息子に聞いた。


「さっき、魔王と一騎討ちになるって言ってたけど、勇者の印によって何か力が強くなったりしてるの?」


「ううん、特に力が強くなったり素早くなったりとかはしてないと思う。魔力も特に変わりないかな」


 息子は自分の体を見回しながら言った。私は息子に提案した。


「そっか。そんな普通の子どもと魔王が戦うなんて、不公平だよな。何とか話し合いをしたり、お前が得意な分野に持っていったりすることは出来ないのかな?」


「戦うってことは、何かお互いに理由があるはずなんだよ。そこを聞いて、お互いに交渉して戦わずに済めば最高だし、どうしても戦わなければいけなければ、例えばお前の得意な魔法鍵盤楽器で演奏合戦にするとか出来ないかな」


「お前もあの森で魔物と遊んでたから分かると思うんだけど、お父さんは、どうしても魔物がそんなに悪い存在には思えないんだよね。だから、魔王もそこまで邪悪な存在ではないと思うんだよ」


「もし不公平な状況で無理矢理お前が戦いをさせられそうになったら、お父さんが魔王に全力で抗議してやるよ。お父さんは仕事柄、議論だけは達者だからな」


 私がそう言うと、息子は笑った。


「ありがとう、お父さん」


 私は息子にニッコリ笑顔で(うなず)いた。

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