24 行軍
勇者一行と討伐部隊は、私の実家近くの森を目指して街道をゆっくりと進んだ。
森の中を通る際、何度か魔物の襲撃を受けた。
襲撃の際、猟兵中隊や騎士団の騎士の多くは、冷静に最小限の攻撃で魔物を追い払っていた。
しかし、東方侯と側近の騎士達は、魔物を追い払うだけにとどまらず、弱そうな魔物や子どもの魔物を見つけると、執拗に追い回し、むごたらしく殺していた。
「東方侯殿、むやみに魔物を殺傷すると、かえって魔物の憎悪を掻き立て、襲撃を招く結果になると思われます。どうか、ご自重ください」
私は、何度か東方侯に諫言した。森の近くで育ち魔物に慣れ親しんだ者として、魔物が一番攻撃的になるのは、仲間や子どもが襲われたときだと良く知っていたからだ。
しかし東方侯は「巡察使殿は、今は巡察中ではなく、単に従者の同行者に過ぎない。部隊運用に対するご発言は控えて頂きたい」と言って、全く聞く耳を持ってくれなかった。
そんなある日、王国第2の都市の近くの森の中の街道で、東方侯が子どもの魔物を追い回していると、その親と思われる魔物が森から飛び出してきた。
東方侯は、突進してきた魔物から慌てて逃げ出した。魔物は勇者一行、すなわち王子の隊列に突進してきた。
護衛の兵士が弓矢や魔法銃で応戦したが、運悪く魔物に当たらず、魔物が王子の側で護衛していた壮年の兵士に体当たりしようとした。兵士の先には馬に乗る王子がいた。
その時、同じく王子の傍らを歩いていた息子が、兵士の前に飛び出した。
「危ない!!」
少し後ろを歩いていた私は、大声で叫んで息子のところへ走ったが、間に合いそうになかった。
息子が撥ね飛ばされる! そう思った直後、不思議なことが起こった。
魔物は、直前で息子と兵士を避けたのだ。そのまま息子と兵士の横を通り過ぎ、王子の乗る馬の目の前を横切ると、森の中へ消えて行った。
「何という無茶なことをしたんだ!」
私は息子のところへ駆け寄ると、息子を大声で叱った。息子は「王子様とあの兵士を守ろうと、つい……ごめんなさい」と素直に謝った。
王子が馬を降りて我々のところへ走ってきた。息子と兵士に怪我がないことを確認すると、身を挺して自分を守ってくれたことに、目に涙を浮かべて礼を述べた。
その場にいた誰もが、息子の勇気と王子の心遣いに感銘を受けていた。
† † †
夕方、王国第2の都市に到着した我々は、宿に分泊することになった。
討伐部隊の中では、勇者である王子の威光が魔物を退けたという噂が広まっていた。
息子本人も「王子様の力のお蔭で命拾いした」と何度も笑顔で言っていた。
王子達と軽めの夕食を共にした私達は、地元貴族主催のレセプションに向かう王子達と別れ、宿に向かった。
王子は息子もレセプションに参加させたがっていたが、ここでも東方侯が反発した。これ以上の軋轢を生むのを嫌い、私と息子は参加を辞退したのだった。
私と息子が宿泊する宿の部屋に向かうと、部屋の前で2人の男が立っていた。今日、息子と一緒に魔物の突進を受けた護衛の兵士と、猟兵中隊長だった。
兵士と猟兵中隊長は、私と息子に気づくなり駆け寄ってきて、息子にお礼をしたいと懇願した。
根負けした私達は、宿の食堂で飲み物をご馳走になることにした。
† † †
「皆は王子様のお蔭と言っておりますが、私には分かります。あれは従者様のお蔭です!」
食堂でコーヒーを飲みながら、兵士が力説した。兵士が言うには、魔物が息子の姿を見た瞬間、慌てて避けたと言うのだ。
「たまたま僕の後ろに王子様がいたんで、そんな風に見えたんだと思いますよ」
兵士の向かいに座った息子が、ミックスジュースを飲みながら笑った。
兵士は、その後も何度も何度も息子にお礼を言った。
兵士が落ち着くと、隣に座っていた猟兵中隊長が兵士の肩に手を置いて話し始めた。
「実は、コイツは私の幼なじみでして。立場こそ違えど、2人でずっと戦ってきました。この度は本当にありがとうございました」
「コイツは運がいいのか悪いのか……何度も死にそうになりながら奇跡的に生き延びるということばかりで。私はハラハラしっぱなしです」
「16、7年くらい前には、無実の罪で投獄されて、この町の高等学校の学生のお蔭で何とか再審無罪になった、なんてこともありましたしね」
その話を聞いて私は驚いた。
「え、再審無罪? それはどんな事件ですか?」
兵士の話を聞くと、何と大貴族の親友と私が学生時代に関わったあの冤罪事件ということが分かった。
その話を聞いた兵士は、親にも子にも助けられたと涙を流して喜んだ。
兵士と猟兵中隊長は、私と息子に深々と頭を下げて、自分たちの宿に帰って行った。
帰り際、猟兵中隊長は私に近づくと、「東方侯にはお気をつけください」と耳元で囁いた。詳しいことは分からなかったが、私は彼にお礼を言った。
「お父さんって凄い人だったんだね」
宿の食堂から宿泊する部屋へ向かう廊下を歩きながら、息子がポツリと呟いた。
「ほとんどは私の親友のお蔭だよ。そう言うお前も今日は凄かったじゃないか。でも、自分の命は大切にしてくれよ」
私は笑いながらそう言うと、息子の頭をなでた。息子は嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしていた。
続きは明日投稿予定です。




