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19 勇者の印

「御子息はどちらにいらっしゃいますか?」


「あちらの自室で寝ておりますが」


「失礼します」


 魔法省の官吏と兵士は、半ば押し入るように官舎に上がり込むと、息子の部屋に入って行った。


 元々眠りの深い息子は、熟睡したままだ。兵士が、息子の首筋を見てスケッチを始めた。


 スケッチが終わると、何人かの兵士が走って官舎を出て行った。


 残った魔法省の官吏が、2人の兵士を後ろに従え、リビングで我々に質問を始めた。


「巡察使殿と奥様は、御子息の首筋のアザについて、どなたかにお話になりましたか? 診療所の医療系魔法使い以外で、誰かが御子息の首筋のアザを見ましたか?」


「いえ、息子は夏休みですし、病み上がりで家でゴロゴロしてましたから、誰も見てません。私も誰にも話していません」


 妻が答えた。


「私も、今日巡察から帰ってきたばかりですし、誰にも話していません」


 私も答えた。官吏が質問を続ける。


「お二人は、このアザについて何かご存じですか?」


 妻が私を見た。私は官吏に答えた。


「いえ。何か分からず心配しています。診療所の医療系魔法使いは問題ないと言っていたようですが」


 その時、何故か私は知らないフリをした。どうしてそんなことをしたのか、自分でも未だに分からない。


 だが、結果的にそれは正解だった。


 兵士がいつの間にか剣の(つか)に手をかけていて、私の答えを聞いた後、そこから手を離したのが偶然目に入った。


 私の答えを聞いた官吏は、ホッとした様子で話し始めた。


「承知いたしました。この件は他言無用でお願いいたします」


「誠に恐縮ですが、御子息におかれましては、明日王宮にお越し頂きたく、馬車はこちらで用意いたします。付き添いは1名でお願いいたします」


「それでは、私が付き添います」


 私はそう答えた。明日は王宮に登庁して仕事をする予定だったが、今の兵士の動きといい、何やら胸騒ぎがしたのでそう答えた。


「承知いたしました。それでは明日よろしくお願いいたします」


 官吏は深々と頭を下げると、兵士を引き連れて帰っていった。



† † †



 翌朝、私と息子は、豪華な王室の馬車に乗り、王宮へ向かった。


 私は、自分の執務室に立ち寄らせてもらい、今日は急用でお休みさせてもらうことを伝えた。


「へえ、お父さんって王宮勤めだったんだ」


 王宮の廊下を歩きながら、息子が不思議そうに言った。私は驚いて尋ねた。


「え?! お父さんは巡察使の仕事をしてるって言ってなかったっけ?」


「うん、聞いてたけど、家からあっちこっちへ旅行する仕事だと思ってた」


「ま、まあ間違いじゃないけどな。王宮で仕事をすることもあるんだよ」


「ふーん」


 などと話しながら、私と息子が案内されたのは、なんと王の謁見室だった。


 豪奢な室内をキョロキョロ見回す息子を注意しようとしたとき、王と侍従(じじゅう)達が室内に入ってきた。


 私は(ひざまず)き頭を下げた。ボーッと立っていた息子も慌てて私の真似をした。


(おもて)を上げよ……おお、いつも民に優しい巡察使ではないか。ははは、息子と瓜二つだな」


 王が玉座に座ると、顔を上げた私と息子の顔を見るなり笑った。


 上奏のときとは異なり国務大臣は陪席せず、侍従の他、王子と魔法使い1人が()(りつ)していた。


 王子は息子と同い年。王の直系卑属で唯一の男子だ。次期国王候補ということで、王は時々王子を会議等に陪席させていた。


 魔法使いはフードを被っていて顔がよく見えなかった。


「さて、今日ここに来てもらったのは、お主の息子のことだ」


 王がさっそく本題に入った。


「お主も知っているだろうが、先日、魔王が出現した。それと同時に、なんと我が息子に『勇者の印』が現れたのだ」


 私は驚いた顔で王子を見た。王子は(うつむ)いたままだった。


「そして、これは王室にのみ伝わる話なのだが、勇者と共に魔王を倒す従者にも印が現れる。お主の息子の首筋に現れたアザは、まさにその『従者の印』なのだ」


 王は息子を指差した。息子が驚いて王と私を交互に見た。


「巡察使の息子よ、名は何という?」


 王に問われた息子は、後に王国の歴史に刻まれるその名を答えた。


 王が玉座から立ち上がり、声を上げた。


「よい名だ。お主は神に選ばれた。従者として、勇者たる王子の魔王討伐を助けるのだ。よいな!」


「はい、分かりました」


 息子は、あっさりと何の気負いもなく答え、頭を下げた。



† † †



 王命により、魔王討伐には私も同行することになった。具体的な打ち合わせは明日以降ということで、私と息子は官舎に帰ることになった。


 帰りの馬車の中、息子が突然私に聞いてきた。


「ねえ、お父さん。王子様ってどんな人?」


「ああ、詳しくは知らないが、聡明で、とても優しいお方らしいぞ」


 私はそう答えた。以前、王室付の知り合いに聞いた話によると、王子はとにかく皆に気を配る優しいお方ということだった。


「ふーん、そっか。じゃあいいや」


「ん? 何がいいんだ?」


「ううん、別に」


 そう言うと、息子は車窓の外に目を向けた。息子の言葉の意味が分かるのは、もう少し後のことだった。

2/20誤字を修正しました。

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