17 魔王出現
魔王出現の公式な第一報を王都に報告したのは、実は私だった。
北方の高山地帯を巡察していた私は、山道を馬車で移動中、もうすぐ目的の町というところで、車窓から魔物の姿を見かけた。
子どもの頃から魔物を見慣れていた私は、その魔物の異変にすぐに気づいた。あんな敵意むき出しの顔は見たことがなかった。
私はすぐに、馭者に叫んだ。
「魔物の様子がおかしい。町へ逃げ込むんだ!」
馭者は半信半疑だったが、今まで聞いたことのない魔物の叫び声を聞いて、慌てて馬車の速度を上げた。
私と同じ馬車に乗っていた魔法使いである随行の役人が、車窓から身を乗り出し、魔物に鎮静の魔法を唱えた。
通常、この魔法を受けた人や魔物は、落ち着きを取り戻すか、場合によっては気を失うのだが、魔物は一向に落ち着かず、怒りに我を忘れているようだった。
そして、魔物は、なんと我々の馬車を追いかけてきた。普通、自分や子ども、仲間の身を守る以外に魔物が人間を襲うことはあり得ない。
比較的安全な街道だったので武装していなかった我々は、這々の体で町に逃げ込んだ。
我々の怒鳴り声を受けて、町の兵士が慌てて外壁の門を閉めた。魔物は、何度か門に体当たりした後、諦めて森へ帰って行った。
「一体何なんですか、あれは?」
町の兵士が信じられないという顔で言った。私は深刻な顔で答えた。
「あんなに狂暴になった魔物は見たことがない。これは……もしかすると魔王が出現したのかもしれない。すぐに王都へ報告しましょう」
私は、町の守備隊の協力を得て、当時試験運用が始まったばかりだった魔法無線機を使って、王都に「北方高山地帯において、魔物が巡察使一行の車列を襲撃。魔王出現の可能性あり」との報告を行った。
私のこの魔法無線機での報告を王都側で書き起こした報告書は、王立博物館に展示されているそうだ。
王都への報告後、私はその時チームを組んでいた査察官や事務官と相談して、巡察を中止することにした。
我々は、安全が確保され次第、王都へ帰ることにした。
† † †
その晩、妻から魔法便箋で連絡があった。息子が珍しく高熱を出したということだった。
息子は至って元気だったが、念のため、診療所へ連れて行くということだった。明日は診療所が休診なので、明後日になる予定ということだった。
私は、何か嫌な予感がしたが、それが何かは分からなかった。その予感を打ち消すように「珍しく勉強したから熱でも出たのかな。明後日、診察結果が出たら教えてね」と軽い感じで返事を書いた。
我々が非武装の旅人等と一緒に各地の守備隊の護衛を受けながら王都に帰り着いたのは、息子が診察を受けた2日後、私が魔王出現の報告をしてから4日後のことだった。
その頃になると、各地で魔物の狂暴化、人間への襲撃が相次いでおり、各地の守備隊は対応に追われていた。
帰路の途中、妻からの魔法便箋での連絡によれば、幸い、王都では魔物による被害は起きていないようだった。
そして、診察を受けたところ、息子の高熱の原因は不明ということだった。
息子は診察後には熱も下がり元気だということだった。ただ、少し気になることがあるので、私が帰ったら相談したいということだった。
王都に着いた私は、官舎へ急いだ。
2/23誤字を修正しました。




