15 成長
王都にやってきた息子は、スクスクと元気に育った。
私自身は分からなかったが、妻をはじめ周りの人は、みな口を揃えて「息子さんは父親にそっくりだ」と言っていた。
息子は人見知りせず、誰に対しても可愛らしい笑顔を見せた。
魔法の苦手な私には分からなかったが、息子の魔力には不思議な魅力があったようだ。
ある日、家族で道を歩いていると、老魔法使いから突然声をかけられた。
「あらあら、可愛らしい魔力のお子さんね。どうか抱っこさせてくださいな」
「いいですよ、どうぞ」
妻が抱っこしていた息子を老魔法使いに預けた。
キャッキャと笑う息子を老魔法使いが大事そうに抱きかかえ、祝福の魔法を唱えてくれた。こんなことが何度かあった。
あと、息子は誰とでも友達になった。
家族で市場へ買い物に行くと、いつの間にか知らない子どもと仲良くなって遊んでいた。
その子が官舎の近所に住んでいると聞くと、「今度遊びに行くね」と言って、後日1人で近所の家に片っ端から声をかけ、その子の家を探し当てたこともあった。
この物怖じしない息子の行動力と尋常ではないコミュニケーション能力には、流石に驚かされた。
4歳になる年、息子は王都の幼年学校に入った。
王都には複数の幼年学校があり、地方出身である私や妻はどの学校がいいのか分からなかったが、大商人の親友の資料が役に立った。妻には、私が独自に調べたということにしているが……
息子の幼年学校は、芸術と水泳に力を入れていた。
一度授業参観に行った日には、息子は魔力を使って弾く魔法鍵盤楽器を楽しそうに弾いていた。
息子の腕前は、元楽団員の妻が聴いても驚くほどだった。
ただ、水泳の先生は厳しく、楽しく泳ぎを学ぶというよりも、泳げなければ罰するという雰囲気だった。
魔法で適度な水温に調整されたプールで、息子は泣きながら泳がされていた。結局、息子は水泳が大嫌いになってしまった。
† † †
初等学校は、地元の平民が通う学校にした。
高級官僚の子どもは息子一人だったが、そんなことを気にする子どもは誰もいなかった。
保護者も、私たちの廃墟のような官舎を見て、まさか私が高級官僚だとは誰も気づいていなかった。
息子は、その尋常ではないコミュニケーション能力で、すぐにクラスメイトと仲良くなった。
入学当初の息子の担任は、ベテランの女性教師だった。とても厳しく、そして、とても優しかった。息子は、時に大層叱られ、時に全力で褒められた。
「息子さんは、本当に子どもらしい子どもですね。勉強と虫は苦手なようですが、魔法鍵盤楽器が得意で、友達を大切にする良いお子さんですよ」
女性教師は、個別の保護者面談で私と妻にそう笑顔で言った。
息子は、都会育ちだったこともあり、とにかく虫が苦手だった。私や妻の実家に帰省したときなどは、室内外に現れる様々な虫を見て逃げ回っていた。
しかし、私が中等学校時代に通学していた森に出てくる様々な魔物には、まったく怖がらなかった。不思議と魔物も息子に懐いた。
息子は一人で、あるいは実家の近所の子ども達と一緒に森へ行き、魔物達と遊んでいたようだ。
「なんで皆は魔物を怖がるんだろう。全然怖くないのに」
息子は不思議そうに私に言った。どうやら、実家の近所の子ども達と一緒に森へ遊びに行ったところ、子ども達が魔物を怖がって、息子を置いて先に帰ってしまったようだった。
当時の魔物は大人しかったし、私がかつて触れ合ったような可愛い魔物も多くいたが、確かに見た目が怖い魔物も沢山いた。
中には人間に威嚇してくる魔物もいて、近所の子ども達は怖がったようだが、息子にはその恐怖心が理解出来なかったようだ。
私は息子に、森には危険もあるし、怖い魔物もいるから、気をつけて遊ぶように伝えた。
息子は「はーい」と生返事をしていた。その後も、息子は帰省中毎日のように森へ遊びに行っていた。
私や妻の実家の町では、森の奥は一種の禁足地とされていて、誰も森の奥には入らなかった。しかし、息子は、私や妻に黙って、かなり奥まで遊びに行っていたようだ。
今思い返すと、この頃からすでに、息子はあの森の何かを感じ取っていたのかもしれない。




