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10 試験

 私は王立高等学校の最高学年になった。遂に法務官になるための試験を受けることになった。


 当時の法務官試験は、貴族は何度でも挑戦することができたが、平民は1度しか受けることができなかった。


 そして、合格枠は、貴族が18枠、そして平民が2枠だった。


 まだ貴族と平民との格差が激しかった当時、こういうことは当たり前だった。当時の私も、何も疑問に思わず受験した。


 過酷な試験が終わり、その1ヶ月後に合格発表があった。私は、同じく受験していた大貴族の親友と一緒に、合格者名が張り出された地方総督府の建物の前の掲示板を見に行った。


 彼は見事合格していたが、残念ながら私の名前はなかった。合格者は、貴族が19人、平民は1人だった。


 それに気づいた彼は激怒した。


「これはおかしい! どうして平民枠が1減で、貴族枠が1増なんだ。君はきっと受かっていたはずだ。これから抗議してくる」


 地方総督府の建物に向かって歩きだした彼を、私は慌てて止めた。


「こ、抗議なんてしなくて大丈夫だよ」


「あれだけ頑張っていた君が不合格になる訳がない!」


 彼は、目に涙を浮かべて叫んだ。彼がそこまで取り乱したのを見るのは初めてだった。


 彼の姿を見て、私も涙が溢れてきた。私は彼を必死に止めながら言った。


「そう言ってくれて本当に嬉しいよ。でも、僕は合格する実力がなかったんだ。僕の力不足だ」


 彼は、そんな私をしばらく見つめると、無言で私を抱き締めた。私は、年甲斐もなく、彼の黒いガウンに包まれて大声で泣いた。


 私は全力で試験に挑んでいたが、正直なところ合格点を取れた自信はなかった。平民の一枠が減っていなくても、私は受かっていなかっただろう、そんな風に思っていた。


 ずっと後になって、私はたまたま職務中に当時の法務官試験の採点結果を見る機会があった。


 私は恐る恐る当時の決裁資料を開いた。


 その決裁資料によると、起案段階では私は合格していた。しかし、ある貴族を合格させるため、決裁の最終段階で平民の枠が一つ減らされた結果、私は不合格に変更されていた。


 その結果を見た私は、目を閉じ、ふうっとタメ息をついた。不思議と怒りや悲しみといった感情は出てこなかった。


 当時の私は合格する実力を持っていた。そして、親友が私の実力を信じ、私のために(いきどお)り、私のことを心の底から思いやってくれた。


 それで十分だった。



† † †



 合格発表があった翌日、私は講義をすっぽかし、安宿の部屋に引きこもっていた。流石(さすが)に、その日は出掛ける気にならなかった。


 部屋でボーッとしていると、入口のドアの隙間から1通の封書が差し込まれた。


 私はその封書を手に取った。


 最初は、同じ安宿に住む楽団員の彼女かと思った。しかし、彼女は演奏会で他の都市に出掛けていて、数日間は不在のはずだった。


 封書を開くと、心が落ち着く香りが部屋に広がった。そのような魔法がかけられていたようだ。


 私は、その香りを楽しみながら、封書の中に入っていた手紙を開いた。


『君の挑戦を期待する』


 手紙には、達筆な字でそう書かれていた。署名はなかったが、昨日私を慰めてくれた彼であろうことはすぐに分かった。


 封書の中には、高等文官試験の願書が入っていた。


 高等文官試験は、行政官の採用試験で最難関とされていた。合格すれば、高級官僚になることが約束されていた。


 貴族は面接のみで採用人数制限もなかったが、平民には人数制限があり、筆記試験が課されていた。試験科目は、法務官試験と重複するものが多かった。


 出願の締切は明日だった。


「よし、やってみるか」


 私はそう(つぶや)くと、彼に感謝しながら願書を書き始めた。

続きは明日投稿予定です。

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