1 人生のはじまり
私がこの世界において単なるモブ・脇役の1人だと気づいたのは、いつの頃だろう。
私は、王国第2の都市に近い、ある田舎町で生まれた。
父親は工房で働く平民だった。寡黙で真面目。そして何より子煩悩だった。
私自身は覚えていないが、夕方、父親が仕事から帰ってくると、自宅の玄関の前で待ち構えていた私が公園に行きたいとダダをこねる。
父親は、疲れているにもかかわらず、そんな私を抱っこすると、嫌な顔一つせず、毎日無言で近所の公園に連れて行き、私が遊具で遊ぶのを日が暮れるまで見守ってくれていたそうだ。
この父親の行動の凄さに気づいたのは、自分が働き始めて子どもが出来た後だった。
母親は、父親と同じく平民で、専業主婦だった。とにかく優しい人だった。こんなに優しく我慢強い人を、私は他に見たことがない。
私が住んでいた家の近くには、盗賊の襲撃や火災に備えた物見塔があった。
私は何故かその塔に興味を持ったらしく、毎日その塔まで走って行き、塔の階段を駆け上った。本当はダメなのだが、塔の兵士が黙認してくれたようだ。
そして、塔のてっぺんまで上ると、下りの階段が怖くて下りられなくなる。
そんな私を母親は抱っこして下りるのだが、地上に下りた私は懲りずにまた階段を駆け上がるのだそうだ。
普通の親なら、流石にそこで怒るだろう。しかし、母親は私が飽きるまで何度も付き合ってくれたそうだ。母親にも兵士にも申し訳ない限りだ。
そんな私は、とにかく何事にも興味津々で、人見知りは一切しない子どもだったそうだ。
ただ、話し始めるのが遅かったらしい。
3歳近くになっても、「とーたん、ちごと」(お父さん、仕事)などと単語を繋げる程度で、文章での会話をなかなかしなかったそうだ。
心配した両親は、近所の医療系魔法使いに相談し、脳の異常がないかなど、なけなしの貯金を使って色々と診てもらったそうだ。
その結果、問題はないということで、両親が安心して暫くすると、爆発的に喋り出したということだった。
私にその頃の記憶はないが、何かのきっかけでスイッチのようなものが入ったのだろうか。
それ以降、私は誰彼構わず話し掛けるようになったそうだ。
1人で自宅の前の道で遊んでいたところ、たまたま道を歩いていた魔法学校の女子学生数人に話し掛け、その学生達と話しながら歩いて行ってしまったこともあったそうだ。
幸い、心配した学生達が、この子どもをどうしようと町外れの関所近くで立ち止まっていたところ、居なくなった私を探していた母親が見つけて事なきを得たとのことだった。
公園で遊んでいると、私はいつの間にか知らない老人に話し掛け、そのおじさんからお菓子を貰うこともあったそうだ。
ただ、いくら話し好き、話上手になったとはいえ、所詮子ども。
近所の友達の家に上がり込んでケーキをご馳走になった際、「おばちゃん、僕もっと美味しいケーキを売ってるお店を知ってるよ」と言って得意顔で教えるなどして顰蹙を買ったこともあるらしい。
母親は、後日その近所のおばちゃんから話を聞かされ、とても恥ずかしかったそうだ。
あと、私はじっとしていない子どもだったらしい。
興味を持ったものに向かってすぐに走って行く。町の食堂などに行っても、ほとんど座らずにアレコレ見に行ってしまうため、私が大きくなるまでは、外食に行けなかったそうだ。
自分で言うのも何だが、育てるのが大変な子どもだったのかもしれない。
続きは明日投稿予定です。