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私の作りたいドレス

 

「奥様、ちょっと宜しいでしょうか?」


 私とマリーが作戦会議をしている所にダリアがやって来た。


「今、仕立て屋の方達とデザインの方向性についてお話していたのですが、奥様のご意見もお伺いしたいと思いまして」

「まぁ、ありがとうダリア。でもごめんなさい、私はドレスについての知識があまり無いの。お役に立てないと思うわ」


 私が困った様にそういうと、ダリアはニッコリ笑ってこう言ってくれた。


「知識なんて物は、後からでも付いて来ます。まずそれよりも大切なのは、本人がそのドレスを好むかどうかです。どんなに素晴らしいドレスでも、着ている本人がそれを好まなければ不思議と身体に馴染まない物なのです」


 ——なるほど。


「確かにそうね。お気に入りの服を着ると、何だかとてもしっくりくるもの。きっとそういう事ね」

「はい」


 私とダリアがそんな話をしているのを横で聞いていたマリーは、ササっと小さなポーチを取り出す。


「では、客間に行かれる前に5分お時間を頂けますか? 少しだけお化粧直しをしますので」


 私達が了承すると、マリーは説明しながら素早く手を動かしていく。


「仕立て屋さん達が、街でお忍び姿の奥様を見かけている可能性もありますからね。髪色と瞳の色が違うだけで随分雰囲気が変わりますが、それに加えてお化粧と髪型で印象を変えればほぼ同一人物とは気付かれないと思いますよ!」


 可愛くアレンジして結ばれていた髪を解いて上品なハーフアップに。目元のメイクに色を足し、口紅を淡いピンクから落ち着いた赤に変える。


 たったそれだけの事で、確かに印象はかなり変わった。

 これなら町娘のアナを見かけた事があっても、かなり親しく話した事があるレベルでないと、今の私と同一人物とは気が付かないだろう。

 はー、化粧って奥が深いなぁ。



 私とダリアが客間に入ると、立ち上がって深く頭を下げた状態で仕立て屋さん達が待っていた。

 ダリアが頭を上げる様に促すと恐る恐るといった感じで顔を上げてくれたのだが、私と目が合うと完全に固まる。


 やっぱり珍しいか……。金色の髪。


 私の金色の髪を見た人間は、最初の一瞬、ほぼ絶対に息を飲む。その後は、気を取り直して私の育ちを貶めてきたり、紅茶を投げつけてきたり、曖昧なリアクションで逃げて行ったりと様々なのだが、今回は石化バージョンだった様だ。


 3人のうち誰かが、


「……ほんとに、女神だ…………」


 と呟いた。


 ……そこら辺にある布をほっかむりにして走って逃げずに、『まぁ嫌ですわ、ふふふ』と笑えた私を、誰か褒めて欲しい。




 ダリアと使用人達によって仕切り直された空気の中、何とか打ち合わせが再開された。


「いやあ……失礼しました。何せ高貴な方にお目にかかる機会など滅多にない田舎者でして。奥様のあまりの美しさに圧倒されてしまいました」


 やめてーやめてー


 どうやら私は、貶められ耐性より褒められ耐性の方が無い事が判明した。嫌な進化を遂げたものだ。


「しかし実際に奥様にお目にかかると、確かに先程ダリアさんが言われていた様に正統派なドレスが良さそうですね」

「ドレスはあくまでシンプルに。奥様の美しさを引き立てるデザインで、ディテールと品質に拘りましょう」

「ドレスのコンセプトは正統派クラシカルで決まりですね。奥様がお召しになれば、まるで王族かの様な気品溢れるお姿になられますよ!」


 どこまでもハードルを上げるのをやめてくれ。

 私にそれを跳べと言うのか。尻と足しか浮かす事の出来ないこの私に。



 打ち合わせが盛り上がる中、話に合わせながらデザイナーさんは何枚ものラフ画を描き上げていく。

 プロって本当に凄い。

 時々私にも話を振ってくれるのだが、無難な相槌を打つのが精一杯だった。ダリアはああ言ってくれたけど、やっぱり知識も無く口を挟むのは中々に勇気がいる。


「奥様、コンセプト等はこちらで決めさせて頂きましたが、実際のドレスのデザインには是非奥様のお好みをお聞かせ下さい。この中にお好きな雰囲気の物はございますか?」


 ダリアはそう言うと、先程デザイナーさんが描き上げたラフ画を何枚か持って来てくれた。恐らくダリアが事前に私があまり派手な物や露出が激しい物を好まない事を伝えてくれていたのだろう。渡されたデザインは、どれになっても良いと思える位素敵な物ばかりだ。


 どれも素敵だな…


 そう思いながら数枚紙をめくると、一つとても心惹かれるデザインのドレスがあった。


「ダリア、私これ……好きだわ」


 自分のセンスに自信は無いし、自分が好きだと感じた物を誰かに伝えるのは随分久し振りな気がする。

 ドキドキしながら思い切ってそう言うと、何だかふわっと心が暖かくなった。


「そうですね。素敵です。奥様に絶対お似合いですよ」


 ダリアはにっこり微笑むとそう言ってくれる。


「このデザインは私も会心の出来だと思っています! 奥様からインスピレーションを頂きました!」

「うん、このデザインなら素材はシルクを贅沢に使って、スカートに張りを持たせると美しいですね。店にあるシルクの在庫を至急確認させましょう」


 シルクを贅沢に……す、凄いお値段になりそうだけど、旦那様も予算に糸目は付けないって言ってたし、大丈夫かな? むしろ高価な方がいい位なのかしら?


 どうにも伯爵家の金銭感覚が身に付かなくて、ついソワソワしてしまう。


 シルクかー、シルク、シルク……


 シルク!!


 私がガタッと立ち上がったので、みんなが驚いた顔をしてこちらを振り向く。


「あら、ごめんなさいね。ちょっと思い付いた事があって。皆さん少しお待ち頂けるかしら?」


 私はそう言うとソソソっと部屋から出て、そこからは小走りに自分の部屋に戻る。



 エイダさんから貰ったあの布。


 

——私、あの布でドレスを作りたい!!




本日もお読み頂きありがとうございます!


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