う話「蛆」
※虫注意※
俺のダチの話を聞いてくれ。
まぁダチと言っても中学ん時に仲良かった奴なんだけどさ。
大学卒業してすぐの頃、ソイツから急に連絡がきたんだ。
流石に中学以来となると何の用だか見当もつかないし、ちょっと身構えながら電話に出た。
そしたらもうビックリ。
俺が知ってた頃のソイツは明るくハキハキした奴だったのに、聞いた事ない位ボソボソ暗~い声してたんだ。
「うわどうしたんだろ」って思って話を聞いてみたら、それがまた奇妙な話だった。
なんでも最近、虫が腕や足を這ってくる幻覚だか錯覚だかを感じるんだと。
それも昆虫的な虫じゃなくてイモ虫とか毛虫みたいな這うタイプのヤツ。
いきなりそんな話聞いちまったら、普通に危ないヤクでもキメちまったと思うよね?
「関わりたくねーなー」と思ってたら、俺の考えを察したのか慌てて「変な薬はやってないからな!」とか弁解してきた。
話によると、本人も始めは「知らない内に誰かに変な薬でも盛られたかも?」なんて怖くなって病院に行ったらしい。
でも血液検査やら尿検査でも異常なし。
念の為にと脳の検査とか色々したらしいけど、これまた健康そのもの。
医者からはストレスが原因だろうと告げられたそうだ。
このままじゃマジで頭おかしくなるってんで、改めて心療内科に行く事を決めたんだと。
実はその頃の俺って、就活失敗するわ彼女に捨てられるわで軽い鬱診断されていたんだ。
その話をどこかから聞いたらしくて、「良い心療内科とか知ってたら教えてくれないか?」ってのが本題だった。
とりあえずその日は、俺が行った事のある病院を二ヶ所教えてやって電話を終えた。
……その三日後だ。
ソイツから「教えて貰った病院に行ってきた」という報告の電話が掛かってきたのは。
でもやっぱり声は暗くてさ。
病院が合わなかったのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。
「実はここ数日の間に虫の這う感覚が酷くなっててさ。手足どころか背中とか腹とか……顔までウゾウゾする感じが続くんだ」
「うげ……それって常にか?」
「うん。寝てる時もだから寝付けないし、痒いし気持ち悪いし、常に鳥肌が止まらないんだ……」
今朝に至っては白っぽい小さな虫の幻覚まで見えたそうで、慌てて病院に駆け込んだそうだ。
「安定剤ってのを処方されたから、とりあえずそれで様子見る事になったわ。色々ありがとな」
「そっか。良くなるといいな」
そんなやり取りをした半年後、複数の同級生達から一斉にソイツの訃報が届いたんだ。
変死だったとの事で、様々な憶測が飛び交っているらしい。
第一発見者はソイツの両親。
一人暮らしの息子と急に連絡が取れなくなった事を心配して大家と訪れた所、バスタブで死んでいるソイツを見つけたという。
冬場であるにも関わらず、まるで何日も何週間も放置していたように腐敗しきり、姿が見えない程に大量の蛆が集っていたそうだ。
ソイツと両親が最後に連絡を取ったのは遺体発見の二日前。
前々から実家に戻る話が決まっていたらしい。
しかも遺体発見の前日、ソイツは引っ越し業者とも会って話をしていたんだと。
直近まで生きていたのにも関わらず──大量の蛆。
そんな事って本当にあり得るのか?
結局、死因は何だったんだ?
病死にしろ、自死にしろ、何にしろ。
さぞかし苦しかった事だろう。
薄い皮膚の上をソロソロと這う虫の流れ。
払っても払っても取る事の出来ない感触。
蠢き続ける大量の粒々とした蛆──
これは俺の想像になるんだが、アイツの虫の幻覚は「死の予知」か何かだったんじゃないかって思ってる。
もしくは幻覚の虫に食い殺されたか。
何にしても辛すぎる。
本当に苦しい。
痒くて堪らないんだ。
常に鳥肌が止まない。
決して馴れないし、一秒たりとも気が休まらない。
最近、耳元で蝿の羽音がよく聞こえる。
もしアイツの所にいた虫が俺の所にまで来たのだとしたら、この虫は話を聞いた人間に伝播するのかもしれない。
だから話した。
俺、お前の事嫌いだからさ。
気付いてないとでも思ったか?
「彼女」とお幸せにな。
元友人がそう一方的に捲し立ててきたのは一昨日の事だった。
今朝、その元友人が亡くなったと知らされた。
死因はまだ不明らしい。
一々気にするのも馬鹿らしいとは思うが、思う所はそれなりにある。
プワン
視界の隅で小蝿が飛んだ気がした。