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王城に戻ると、城中が大騒ぎであった。
ロンからアルがネバーランドに行ったと聞いた人々が、今か今かとアルの帰りを待っていたのである。
アルはそんな人々の前に堂々と立ち、持ち帰った秘宝の欠片を見せつける。
その小さな小さな宝石をまじまじと見つめ、歓声をあげる人々の声に俺は耳を塞ぎたくなった。
この一件により、ようやくアルは王位継承権を獲得することとなった。
同じく王位継承権を持つ第三王子エリックは、アルの王位継承権獲得を大いに喜んだ。
彼は引っ込み思案な性格のため王位にはからっきし興味がなく、むしろ王位継承権の辞退を望んでいた。
ちなみに第四王子のギルバートは現在3歳のため、チャールズから王位継承権が剥奪された今、次の王はアルに決まったも同然である。
今まで以上に婚約者候補の釣書がたくさん届くがアルはその全てを断っていた。
アルが釣書を突き返す度に、俺は不安になる。
王になる以上、王妃は必要なので、結婚相手を見つけるべきなのだ。
俺は心からそう思っているはずなのに、アルが釣書を突き返すたび、嬉しくなってしまうのだ。
アルに婚約者ができない事をこんなにも喜ぶなんて、どこまで性格が悪いのかと落ちこむ。
アルの事は嫌いではないし、幸せになってほしいと思っている。
でも、婚約者がいる事は少し、ほんの少し許せないのだ。
……ふと、そこまで思って考えついた。
「俺ってアルの事、そういった意味で好きなわけ?」
「……気づかれてなかったんですか?」
誰もいないと思っていたのに、独り言に返事があり俺は体が跳ねる。
後ろを振り向くとロンがそこには居た。
「あれだけあからさまでしたので、アルフレード様も気づかれてますよ?」
「は?」
知らないうちに俺の恋心は周知の事実だったらしいです。
俺の婚約者候補に対する対応を見てたらわかるとロンは言うが、あれはモテるアルへの僻みであったのは確かだ。
混乱する俺の側に、いつの間にかアルまで集合していた。
「まさか自覚がないまま嫉妬していたとはな」
ため息を付きながらそう呟くアルに、俺は少しムッとする。
「俺は妖精なんだし、俺の気持ちなんかアルにとってどうでもいいもんだろ!」
「どうでもいいとはなんだ。俺はお前と添い遂げるつもりで色々と手続きを進めているというのに」
「はぁ?」
苛立ちも含めてアルに八つ当たりをすれば、思わぬ攻撃を受けてしまった。
「知らないのか? 秘宝の欠片を妖精が飲むと人間になれるんだ」
アルは固まる俺に追加攻撃を仕掛けてくる。
なんでも大昔の王子が妖精と恋に落ち、添い遂げたい一心で見つけたのが秘宝の欠片らしい。
そして秘宝の欠片の大切さが語り継がれていくうちに、王位継承権を得るために秘宝の欠片を見つける必要があるという掟に変化していったそうだ。
「ベルタは俺のために、これを飲んでくれるか?」
「……飲んでやらん事もない」
「そうか。なら俺の今ままでの行動が無駄にならなくて済んだよ」
アルから秘宝の欠片を手渡され、俺はまじまじと宝石を見つける。
ご自由にお取りくださいで置かれていた宝石の癖して、重要な役割を担っている。
俺は一思いにその宝石を飲み込んだ。
――――……
俺はあれから三日三晩寝込んだ。
あんなに辛い思いをするなら、宝石なんて飲まなかったと何度思った事か。
そんな俺をアルは定期的に見舞いに来てくれた。
妖精であった頃はアルの部屋で一緒に寝ていたのだが、サイズがだんだんと大きくなるにつれて、専用の部屋が用意された。
完全に人間のサイズになり回復期となると、たくさんのメイドが俺の世話をしてくれた。
清楚系のメイドにドギマギしながら俺は流れに身を任せるしかなかった。
そうすると何故だか、アルとの結婚式まで終わってしまったのである。
「妖精から人間になると色々と大変なんだよ、戸籍とか。てっとり早く結婚して身分を用意するのが簡単だったから」
なんてアルは説明するが、顔がニヤついていたので、ほっぺを抓っておいた。
妖精であった頃は片方のほっぺを引っ張るので精一杯であったのだが、人間サイズになれば両方のほっぺが同時に引っ張れるので俺のブームとなっている。
そんな俺の心情を知ってか、この時のアルはされるがままであった。
「気は済んだか」
俺がほっぺから手を離すと、アルは俺の手を掴み指にある結婚指輪をするりと撫でる。
「なにしてんの?」
「俺も気が済むまで、ベルタが手に入ったことを堪能しようかと」
ニヤニヤしながら手をするすると撫でるアルの手つきが厭らしくて、俺は手を払いのけた。
「何故嫌がる」
「手つきが厭らしい!」
「いいだろ。夫婦なんだから」
そんな言い合いを永遠と続けることとなるのだ。
――――……
人間の赤ちゃんが最初に笑ったとき、妖精は生まれる。
今日もほら、新しい命が妖精の谷に生まれ落ちた。