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次の日、俺とロンは尾行作戦に打って出た。

ロンはマリュスの後をつけ、俺はフェシカの後をつける手筈となっている。

俺は候補者塔のフェシカの部屋の前を早朝から陣取っていた。

いつ出かけても後をつけれるようにしたのだが、フェシカが部屋から出たのはお昼過ぎであった。


フェシカは普段アルと会う時の服装ではなく、どこか素朴で質素な服装をしていた。

俺はフェシカにバレないよう一定の距離を開けてついていく。

フェシカはどこか焦ったようにお城の門を抜けて城下町のとあるパン屋さんへ足を運んだ。

そこで数点のパンを買い込むと、今度は噴水のある広場のベンチに座りパンを頬張り出る。


そんなフェシカにとある男性が声をかけた。

「マリュスだ」

俺は思わず小声で呟く。

マリュスから少し離れた路地にロンの姿もある。

今いる場所からは声が聞こえないため、俺はバレないように移動し、2人のすぐ近くのゴミ箱裏で聞き耳をたてる。


「もう、正直に話そう。俺は罪を償いたいんだ」

「ダメよ!そしたら私まで罪に問われるわ」

「よりにもよってアルフレード様に罪をかぶせるなど。そうと知っていたら預けなかった」

「今更だわ。一度でも罪から逃れようとしたのだから、最後まで貫き通しなさいよ」

2人の会話は誰にも気にされる事はなかった。


ここで乗り込んで自白を促したところで、マリュスはともかくフェシカは素直に話しそうにない雰囲気であった。

俺はどう行動するべきかと悩んでいると、そんな2人の前に意外な人物が現れた。

「っ!」

2人はその人物を見て息を飲むと、素早くその場に立ち上がる。

「陛下!」

「話を聞かせてもらった。詳しい話を聞きたい。……素直に話してくれるね」


アルの父親でもあり、この国の王がお忍びの格好をしてそこに立っていた。

俺は突然の王の登場にびっくりし、思わずゴミ箱裏から体がはみ出してしまう。

「ベルタ様もそこにおられたのですね。息子のために気苦労をかけたね」

いつもの威厳ある姿ではないからか、王はただの普通の父親に見えた。


――――……


その後、一同は城へと戻ると、俺とロンは王の応接間へ案内された。

フェシカとマリュスは尋問部屋へと連れて行かれたそうだ。

俺とロンは突然の出来事からの展開が早すぎて何も理解できていなかった。

「ベルタ!ロン!」

そこに罪人塔へいるはずのアルが応接間へ勢いよく入って来てくる。

アルの後ろには王と王妃が続いていた。


「改めて2人にはお礼をいうよ。ありがとう」

王と王妃は改めて俺とロンに頭を下げたことに、焦り慌てて止める。

「あの、勿体無いお言葉です」

「私たちは元からアルが犯人とは思っていなかったのだよ」

王は事件があった時の、いやアルの周りの人選変更の時からの心境を語ってくれた。


まず第一に重要な事は第二王子のチャールズがネバーランドに行くために妖精を脅したという事実である。

チャールズはプライドが高く野心家であった。

そのため物心のついた5歳の段階で、兄よりも早くネバーランドに行きたいという意欲が高かった。

自分付きの妖精を脅して強要するほどであったそうだ。

側付きの妖精はネバーランドに連れて行ったあとは、自由にしていいとの言葉を信じ解放されたいがためにチャールズをネバーランドへ連れて行った。


ネバーランドから秘宝の欠片を持ち帰ったチャールズは側付き妖精を解放するのでなく、殺したそうだ。

「おそらく、事実がバレるのを恐れたからだろう」

王はそう予想していた。

チャールズは兄弟で唯一、王位継承権を持つ人間として周りからも崇められ調子に乗っていたのは王たちからもわかっていたそうだ。

アルがもし、ネバーランドへ行くような事があれば、チャールズはアルを殺してしまうかもしれない。

そんな恐怖心をも持っていたそうだ。


「ベルタ様が、アルを守って下さった」

王は俺が嫉妬して連れて行かなかっただけなのに、全てを見通して連れて行っていないのだと過剰評価したのである。

そこで安心していたのだが、第三王子のエリックもまたネバーランドへ行ってしまった。

この事がチャールズにどう影響するのか未知数であった王たちは、チャールズの周りを豪勢にすることで一時凌ぎを試みた。


「アルの周りを減らし、チャールズの周りを増やすことで、あたかも優先順位が高いのだと本人に認識させるのが有効だと思ったんだ」

この作戦は見事成功し、弟であるエリックより自分の方が優位である事でチャールズの意識は弟には向かなかった。


そして今回の事件である。

チャールズが人から恨まれていることは王たちも知っており、毒瓶を持っていたからとアルが逮捕されたことには大変びっくりしていた。

そしてこれは仕組まれたのではないかと考えたのだ。

「私は、チャールズの自作自演だと考えたのだ」

王たちもアルの無実を信じ、密かに調査を行っていたそうだ。


「そこで今回の現場を確保できたというわけだ」

さすが王の情報部隊である。

俺たちの比ではないぐらいの情報を精査し、あの現場へ登場したのだ。

「結局、チャールズの自作自演の証拠は掴めなかったのだが、代わりのものが手に入った」


――――……


さて、王たちはチャールズの悪行を知っており、なおも対処しなかったのは証拠の問題であった。

妖精を殺してしまっている事で、証言を得ることもできず、他の面では重い罰を与えられるような行動は取っていない。

常日頃悩まされていた問題であったのだが、今回の件を調査中に思わぬものが見つかったのだ。

「ベルタ様。これは読めますか?」

そう言って胸元から出したのは、ノートの切れ端であった。


『助けて。耐えられない。今日もチャールズは私の頭から熱湯をかけた。全身が熱くひりついているのに、チャールズは私が悪い子だから躾しているのだという。昨日は息が苦しくなるくらい長時間水の中に閉じ込められた。早く自由になりたい。もう、痛い思いはしたくない』

小さく歪んだ文字でそう書かれていた。

「これって」

「おそらく妖精の手記だと思うが、我々には読めなくてな。ベルタ様は読めますか?」

俺は王に書かれていた内容を伝えた。


「そうか。……チャールズから王位継承権を剥奪する」

王は眉間にシワを寄せながら切れ端の紙を大事そうに懐に戻し、固く決意の篭った声で宣言したのである。



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