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「なにも変わらん」
もともと第二王子が嫌われているのは解りきったことなので、新たな情報が得られたわけではなかった。
「予想より酷かったですね。俺、アルフレード様付きの護衛で良かったと思いました」
ロンは少し顔を青ざめさせていた。
アルは性格も悪くないし、外面に関してはかなり良いので、チャールズとは天と地の差がある。
そんな扱いの差というのが、想像ですら身震いする程なのだから、実際に移動となったマリュスたちにはそうとう堪えたはずだ。
本人たちの意思があって移動したわけではないのだから尚更である。
アルは自分の扱いが酷くなっている事に卑屈になったりはしない芯の強い優しいやつだ。
だからこそ、こんな濡れ衣をかぶせるやつが許せない。
「他に聴取するなら誰がいっかな」
「動機のある人物は多数ですので、毒を盛れる人物を洗い出してみましょう」
仕事を抜け出したロンと、アルの執務室で作戦会議を開いた。
まず、当日のお茶会の参加者は兄弟6人とその婚約者候補たち(一部複数)、側付き護衛が各1名、メイドが複数名である。
そのなかでチャールズの近くにいたのは、チャールズの婚約者候補5名、側付き護衛のマリュスである。
婚約者候補を侍らすのに必死で他の兄弟たちとの交流を行わないので、なんのためのお茶会なのかと問いただしたい気持ちだったのでよく覚えている。
毒をお茶に仕込むことに関しては、紅茶を入れるメイドにも可能である。
紅茶は側付き護衛が、メイドのところまで取りに行って持って行くので、マリュスに渡せば確実にチャールズの席まで運ばれるが、他の婚約者候補たちに渡される可能性もあるのだ。
無差別でない以上、やはり側にいるメンバーが最有力候補である。
「マリュスは同じ護衛ですので、取次はできますが、婚約者候補の方々となると、俺では取り次げません」
「だよなぁ。だから俺、しれっと飛んで様子伺ってみるわ」
妖精の特権を最大限に利用し、俺はチャールズの婚約者候補たちを一人ずつ訪問して行くことにした。
――――……
婚約者候補たちは希望すれば城で生活することができる。
専用の塔が建っており、そこで他の候補者たちと一緒に生活することとなる。
基本的にこの塔は分別のつく12歳ころから活用されるため、現在いる候補者たちはアルかチャールズの婚約者候補となる。
……まあ、アルの婚約者候補は1人のみなので、残りはみなチャールズの婚約者候補だが。
チャールズは自分の婚約者候補たちにこの塔に住むのを進めていたため、この塔には20人近くの候補者たちがいた。
昨日のお茶会にいた候補者たちも漏れなく生活しているため、俺はそれぞれの部屋を覗いてみた。
……女の子の部屋を覗くなんて不謹慎だが、緊急事態だし俺も今は女(妖精)なのだからと正当化した。
お茶会に参加した候補者たちはジュリア、アンナ、アレッサンドラ、ソフィア、エリザの5人だと、マリュスから聞いていた。
手始めにジュリアの部屋に行くが誰もおらず、出かけているようだった。
次にアンナの部屋に行くが、同じく誰もいなかった。
結局全ての部屋をからぶった俺は、肩透かしを食った。
一度部屋に戻ろうと移動している最中、候補者塔の談話室に5人が揃っているのを見つけた。
俺はそろっと近づき、バレないように会話を盗み聞く。
「でもさ、本当にアルフレード様が毒を盛ったと思う?」
「絶対ないでしょ。品行方正を自でいくような方だよ」
「だよね。毒盛られたのも良い気味だし、犯人にしてもよくやったと思うし」
「目が醒めるまでは自由に過ごせるのがとても嬉しいです」
一様にチャールズの悪口合戦が行われており、女子怖ぇとしか思えなかった。
「アルフレード様が王位継承権持ってればなぁ。断然第一王子派なんだよね」
「アルフレード様は15歳だよ。王位継承権あっても私たち12歳は相手されないって」
「でも、フェシカ様一筋の所も素敵です。フェシカ様もアルフレード様のことを思っていて。⋯⋯私もあんな相思相愛な関係を期待してたのに」
情報はなにもないかと落胆して部屋に戻ろうとした時、アンナが耳寄りの情報を話す。
「でもさ、私見ちゃったんだよね」
「えぇー。なにを?」
「アルフレード様の婚約者候補のフェシカ様が、マリュスと言い合ってるの」
「マリュスって無表情で、何しても怒らないじゃん。言い合いできるほど仲良いの?」
「わかんないけど、昨日のお茶会の時よ。チャールズが倒れる数分前くらいかしら?」
俺はいい情報を得たので、5人の話に深入りすることにした。
「ねえ、今のほんと?」
「ベルタ様!」
突然現れた俺に、5人はとても驚いた声をだした。
俺は密会を目撃したというアンナに詰め寄る。
「フェシカとマリュス、仲良さそうだった?」
「え、えぇ。言い合いではあったけど、距離も近かったから気心の知れている相手ではないかと」
「内容はわかる?」
「ほとんど聞こえなかったけど。 『やめて』とか、『私がどうにかする』とか」
「そう。ちなみにあなたたちはチャールズの側付き妖精見たことある?」
「ないです」
5人が一様に妖精を見たことがないとのことだった。
――――……
「マリュスとフェシカ様がまさか……」
ロンのいる執務室まで戻り先ほどの話をすると、ロンは驚愕の表情をしながら、信じられないと呟く。
マリュスとフェシカが協力関係にあれば、この事件は可能なのである。
どちらが主犯格にせよ、まさかの裏切りである。
「しかし証拠を見つけないことには、警察もましてや陛下たちは信じないかと」
「だよなぁ。毒瓶はアルの服から出たし、他に証拠になりそうなものねぇ」
俺とロンは新たな課題に頭を悩ませることとなった。
「フェシカとマリュスの密会の現場でも抑えられれば自白とれそうだよな」
「しかし、今回の1件があった以上、簡単に密会するとも思えません」
「だよな。待ちの状態も気にくわねぇし」
どうにかフェシカとマリュスが会いやすい環境を作れやしないか考えてみるが、思い浮かびもしなかった。
「……もしかしたら」
数時間ほど悩んでいると、ロンが何かを思いつく。
それは、マリュスが休みの日に城下町に行くということと、そこで恋人と会っているという噂があるということであった。
そしてマリュスの休みは都合がいいことに明日なのだという。
「もしかしたら、明日も城下町に行く可能性がありますね」