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2)

 鉄仮面の傍ら、ではなく膝の上に少女が座っていた。


 見ているだけで恥ずかしい。レネは、目をそらそうとしたが、レネの目はどうしても、仲睦まじい二人から離れてくれなかった。


 鉄仮面が希望した袖で隠れる腕輪の相手は、王太子殿下でなかった。そのことにレネは意識を向けた。王太子と鉄仮面は、常に二人で居たため、その仲にあらぬ勘ぐりをしたものは多かった。随分と噂にもなった。王太子妃殿下とのご婚姻を機会に噂は下火になっていた。姫君のご誕生もあって、最早忘れられた噂だ。

 

 目の前にある、噂が噂でしかなかった証拠から、レネは目を離せずに居た。


「気にするな。さほど珍しい光景ではない」

王太子殿下はおっしゃるが、絶対に珍しい光景だ。いろいろな貴族の館を訪れたことがある。だが、妻や恋人を膝の上に座らせてご機嫌の当主など、レネは見たことも聞いたこともない。違う。当主ではなく当主の腹心だ。どちらでもいい。目のやり場に困る。


「この子には、外そうと思えば外せる程度の太さにしてやってください」

仕事だ。レネは気を引き締めた。

「かしこまりました」

鉄仮面の婚約者が差し出した左手首の太さや、手の幅などをレネは慎重に測っていく。できるだけ触らないようにするのが礼儀だ。レネは冷や汗が背を伝うのを感じた。鉄仮面の想い人である。貴族の女性の手を測るときよりも、緊張した。


 鉄仮面は、二度もハンカチを貸してくれた。見た目や噂ほど怖くはないはずだと、レネは自らに言い聞かせ、なんとか平静を保った。


「恐れ入ります」

続いて差し出された鉄仮面の手首を見て驚いた。最近痩せたのだろう。皮に張りがない。骨と筋が異様に目立つ。何かあったのだ。そう思うと、先程の王太子殿下と鉄仮面の会話の意味が変わってくる。


 レネは、動揺を必死でかくしながら、サイズを図った。


「今の大きさに合わせてもよろしいでしょうか」

痩せた今の状態に合わせては、いずれ元に戻った時に、使い勝手が悪くなる。

「大きさは調節することができます。特に、指輪も腕輪も意匠が簡単であれば、大きくすることは可能です」

最近痩せたであろう鉄仮面の、今の手首の太さに合わせて良いのか、レネも迷った。


「あぁ。さすがですね」

鉄仮面は、レネが言おうとしていることに気づいたのだろう。

「今の太さに合わせてください。私の分は、出来るだけ簡素な作りにしてください。外れないものがほしいのです」

「承知しました。飾りもなにもない、輪一つが最も簡素ですが、それでもよいですか」

「えぇ。輪一つ、何も装飾は必要ありません」

鉄仮面の後ろで、王太子殿下が仕方ないというように頷いた。


 鉄仮面が少女の手を取り、左手首に口づけていた。少女が照れたように微笑む。可愛らしい少女だ。鉄仮面の恐ろしさも薄れるようだった。

「あの、お嬢様のものは」

「以前、草花の意匠の小さな宝石のブローチと首飾りがあっただろう。あれの対になる腕輪はつくれるか」

「はい」

アレキサンダーの言葉に、あの意匠を気に入ってくださったのかと、レネは嬉しくなった。

「ロバートと一緒では駄目なの」


 想い人と同じ腕輪が良いという少女の、可愛らしい願いに、レネは微笑んだ。

「あなたが身につけるならば、可愛らしいほうが良いです」

鉄仮面の甘い言葉に、少女が頬を染める。


「表向きは、今回の、君の貢献への褒美だ」

レネは、王太子殿下の一言は無粋だと思ったが、鉄仮面も少女も何も感じていないらしい。


「ローズの腕輪を作ったことは、公表していい。だが、ロバートの腕輪を作ったことは、何があろうともだれにも一切口外するな」

王太子殿下のお言葉だ。

「承知いたしました」

レネは深く頭を下げた。


レネ以外の視点の場合

「馴染みの職人に腕輪を注文した」

で終わってしまうお話でした。


引き続き、本編もお楽しみいただけましたら幸いです。

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