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兄の婚約者 ③

シルヴィア視点になっています。

「なぁ、勝負をしよう。」


 はぁ?何言ってるの?と、シルヴィアは思い、目の前の男をじっと見つめる。

 それを意にも介さず楽しげな笑みを浮かべて見下ろしている青年は、黒みがかった紫の長い髪と瞳を持つ、良く言えば容姿端麗、悪く言えば女好きそうな顔をしている。

 そんな彼の長い髪は今、シルヴィアの頬をくすぐっている。逃げ出したくても、ソファに押し倒された状態で、彼に両手を押さえつけられてしまっては動かすことすらできない。

 彼女にできる抵抗は相手を睨み付けることと、早く解放してもらうための話術くらいだ。


「何を勝負しようと言うのですか?」

「そんなに慌てなくても良いじゃないか。まだ、俺たち出会ったばかりだよ。」

「出会ったばかりでこんなことする方と、長居したくございませんわ。」

「普通ならこれで落ちない女性はいないんだけど…」

「では、これで落ちる女性の元へ行ってくださいませ。」

「つれないなぁ…」


 やれやれと首を左右に振ってため息をつかれる。


「せっかく婚約者になったんだ…楽しまないと、ね?」



 顔が近づき頬が触れる距離。耳元で囁かれる。

 私は早くこの状況が終わって欲しいと心から思った。


「わたくしこれでも忙しい身ですの。貴方に構っている時間はなくてよ。」

「おいおい、そんなに怒らないでくれよ。」

「怒らせたくなければ、早く要件をすませてください。」

「…そんなんじゃ、異性にモテないよ。」

「余計なお世話ですわ。」


 ニヤリと笑う彼はどこか楽しだ。その魔性の笑みにゴクリと喉が鳴ってしまう。


「賭けの内容は、どちらが先に相手を惚れさせるか。俺たち婚約したけど、政略のための婚約だからね。そんなのつまらないだろう?」


 人の頬を遊ぶように撫でてくる。


「つまるつまらないなんて、結婚に必要なことではございませんわよ。それに、その賭け…わたくしにメリットございますか?」

「もし、君が勝ったらこの婚約を白紙にしよう。もちろん、政治的な面で不都合はないようにすると約束するよ。」


 不適な笑みを浮かべる彼は、声のトーンを落として続ける。


「だって、君は俺の兄が好きなのだろう?」

「…そういうのではございません。」

「ふぅん…なら、つまり俺にも脈があるってことだな。」


 握っている手に力が入る。私は話を反らせたくて、矢継ぎ早に言葉を続けた。


「貴方が勝ったら?」

「それは俺が勝ってからのお楽しみ。」


 口許に指を当てて言葉にする辺りがキザっぽい。

 だけど…と、疑問に思う。彼がただ本気でそんな勝負をしたいだけだとは思えなかったのだ。


「本気だよ。」

「…ッ!」


 心でも読み取ったのか、彼はそう言って身体をさらに寄せて密着させた。彼に腰の辺りを優しくなでられ、ゾクッとする。

 フッと楽しげに笑う息が顔に感じる程に近い。


「こういうことを好きでもない方にされたら、嬉しくも何とも思いませんわよ。」


 唇が触れるか触れないかという位置で止まる。

 諦めたように彼がおどけた様子で、なにもしないと手を上げてやっと身体を離した。


「つい、君が可愛くて食べたくなったんだ。」


 歯の浮くような言葉にため息が出る。


「ハァ…要件は以上ですか?もう仕事に戻ってもよろしくて?」


 彼が起き上がり解放され、身体を起こした。急いで部屋から出ようとする背中にレオの声が届く。


「勝負は?」

「良いですわ。レオ様のお好きになさってください。どうせ、私がどうこうできる婚約ではございませんし。」


 そう言って私は彼の返事も待たずに部屋を辞した。


 バタンと閉じた扉に寄りかかって、胸に手を当てて深呼吸をする。手にはバクバクと大きく脈打つ心臓の音が感じられ、冷めていたはずの頬は紅葉していた。私は高鳴る気持ちを深呼吸で押さえつけたのだった。




 そう、私はレオが好きだった。




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