カルテ同盟軍戦:竜人ドラグ・ファフニール 後編
それからさらに三日後
天気は今にも雨が振りそうな曇り空
十分に干上がらせたカルテの王都にダメ押しの大規模な侵攻をかけ
今日一気に攻め落とす
「この日を待ってたぜ」
「行くぞ!勝どきをあげろ!」
「目標はカルテの王様の首、突っ込め!」
兵士達の雄叫びと共に、リンドブルムの軍勢はカルテの王都に一気に押し寄せる
カルテの王都の教会の中は地獄絵図だった
ベットが足りなくて、床に座ったり寝てたりする患者がそこら中にいた
衛生環境も以前の平和だった頃に比べたら最悪とっていい
戦う兵士だけでなく、治療を施す医師やシスターにも暗い影を落としていた
「くそっベットも薬品も不織布すら足りない」
「この患者はもう・・・黒タグを」
「仕方ないよ・・・今は赤タグの子供の手術をしよう」
「病原体をばら撒いたりなぶり殺しにしてこれが人間のすることか!」
彼等は、患者の状態に合わて色の付いたタグで治療の優先順位を決めていた
そこまでに追い詰められてた
その中で一人の女性が呟く
首までの伸びている黒髪で長身、白衣を着ている
「あいつは・・・ダークはまだこんなこと」
彼女の名前はセツナ
幼い頃、ダークと同じスラムの街に生まれた彼女
彼女は今、このカルテの国の大臣の身分置くと共に
そしてクロノ神聖国の医術団の代表としての役職についていた
幼少の頃は彼と一緒に遊んだが
頭が良かった彼女は、勉学に励み今の地位を確立した
ダークと最後にあったのがリンドブルムを建国する二年前
ダークは度々ここへ来て、治療を受けていた
たまに笑顔で談笑することもあった
その時はまだ彼は大それたことはしない小さな傭兵団を率いてるだけの街のチンピラ程度だったが
二年前のそれ以来、会っていない
「今は・・・治療が先」
彼女は、懸命にひたすら命を救おうと治療を続けていた
カン、カン、カン、カン
そんな彼女を裏切るかのように敵の侵攻を知らせる鐘が鳴り響く
「て、てきしゅうー!」
「武器を取れ!ここは医術の最後の砦・・・おとさせるな!」
波いるカルテの兵下達を蹴散らしながら進軍する私の前に
一匹・・・一人のドラゴンが現れて降りてきた
何かの魔法のような光に包まれたあと、その容姿が変貌した
彼はドラゴンでありながら人間の姿をしていた
茶色がかった濃い赤い髪に金色の瞳、額には角が生えてトカゲの尻尾のようなものが生えている
「自己紹介をしておきましょう、ドラグ・ファフニールです」
「貴女がリンドブルムの指揮官、レティシア・スノーか?」
「ユニ王国の聖女も堕ちたものですね」
力の強いドラゴンは人の姿をとる能力があると聞いたけど本当だったとはね
実際に目の前で見れば信じるしかない
それに、私のことを知っているのを見ると
彼がドラゴンの里のリーダーであるドラグ・ファフニールなのね
私は魔力で作り魔力で強化した氷の剣を出現し構える
「そうだと言ったら?」
「この先にはいかせない・・・」
「降伏する気はあるかしら?」
「ないですね」
対するドラグ・ファフニールも、手首から肱にかけて爬虫類のような鱗を出現させ徒手空拳の構えをとる
素直に降伏してくれれば良かったけど
戦うしかないようね
私と彼は、お互いに隙を探りながらその場で動かず数秒の時間が立つ
戦いの続く空は曇り始め、ぽつぽつと雨が降り始めていた
雨粒止まったかの見えた瞬間
両者は同時に動いた
レティシア・スノー・・・彼女にまったくといっていいほど隙が無い
だが、いくしかない!
ドラグ・ファフニールが地面を蹴り拳を振り上げ突撃
彼・・・まったく隙が無いわね、なら
正面からぶつかるまで
私は、氷の魔力剣を横薙ぎに振るって走る
ガキィン!
すれ違いざまに
私の剣と彼の鉄の様な鱗で覆われた肱が交差する
火花が散る
すれ違った後
私はすぐに足を踏ん張り、身を捩じって体を反転させる
手のひらに魔法陣を形勢し、魔法陣から鋭利な氷の破片を発射する
対する彼も、人間形態でもある翼を羽ばたかせ上空へ飛び氷の破片を回避
私の頭上に位置取り
口から火炎を吐いた
回避は間に合わない・・・!
私は氷の壁を頭上に形勢する
彼の放った炎は凶悪な熱を帯びて氷の壁を溶かし、体にまで炎が達する
ドレスの一部が焼け落ちる
炎を辛うじて防げたけど!
私は上空にいる彼を引きずり降ろすために、氷の破片を8個形勢
それぞれを遠隔操作して6個を彼に飛ばす
対する彼は空中をきりもみ回転を加えながら、さらに上空へ
二度目の炎のブレスで氷の破片を二個溶かす
左右に回った氷の破片を両手で掴み砕き背後に回った二個を翼の羽ばたきで叩き落す
彼は、そのまま落下するように私の脳天めがけ拳を振り上げ突撃する
私は、残り二個の氷の破片のコントロールを解いて魔力の錬成を集中を中断
その場から、横跳びで離脱する
その直後、彼と彼の拳が城の頑丈な石造りの床を砕いて着地する
彼の落下した地点は、円形状にヒビが入ってへこんでいた
・・・っドラゴンの力ってのはとんでもないわね!
彼は、落下した直後にも関わらずそのままの態勢で私の方へ拳を振り上げ突撃してきた
対する私は足元に魔法陣を形勢し地面をヒールでカッと踏み鳴らし地面に巨大な氷の塊を無数に出現させる
しかし彼はその全てを拳で砕き突っ込んでくる
彼との距離が零距離、目と鼻の先のまで着た瞬間
私は、自身の前に氷の壁を形勢
苦し紛れの咄嗟の防御魔法だ、普通ならばね―
氷の壁が砕かれる
しかし、そこに私はいない
ドラグ・ファフニールは、表情は驚いたように目を見開いている
地面を凍らせ滑るように背後へ移動した
彼の背後を取った私は、首元へ渾身の力で氷の魔力剣を振るう―
「・・・っ!?」
表情が険しくなる
私の剣は彼には届かなかった
私の剣は、彼に噛みつかれ
砕かれてしまった
ドラゴンは顎の力も強いってことね、つくづく人間の姿に騙されるわ・・・
その後、私の敗北を悟らせるには一瞬だった
両手を押さえられ、地面に押し付けられる
彼にとっては数秒あれば事足りることでしょうね
「終わりです、降伏しなさい」
「私がこの状況でブレスを吐けば、貴女の顔に傷を付けてしまうでしょう」
彼は、私に降伏を要求してきた
普通ならば敵はすぐ殺すべきだけれど
・・・何か理由がある?
しかし、彼の口から繰り出された言葉は意外なものだった
「私の妻になりませんか?」
「・・・・・」
「私を口説いてるの?・・・無駄よ死ぬ覚悟くらい出来てるわ」
なんか、ドキッと心臓が跳ねあがる感覚がした
あまりの突拍子の無い言葉で、私は思わず思わず目をパチパチと見開いてしまう
・・・いきなり言われて戸惑ったけど
まぁ、冷静に考えると彼がそう言うのも分からくはない
問題は今言うことかってことだけどね!
「でも死ぬ前に最後に一つ聞かせてちょうだい」
「それはやっぱり、一族の為のかしら」
私は、冷静に切り返してみせる
フリをした
「ええ」
「ドラゴンは人との子を成す事ができるですが、その母体の魔力や能力を引き継ぐ可能性が高いのです」
「貴女のような強い女性が子を成せば・・・我が一族は安泰だ」
彼は、素直にそう言った
雨に濡れた彼の顔は、苦しそうに悩んでいた
小雨だった雨は、いつの間にか土砂降りに変わっていた
ザーザーと大雨が振っているが、不覚にも彼の大きな体が傘代わりになってしまっていた
私はそんな彼の顔をあっけらかんと見つめながら
「質問にわざわざ答えるなんて、真面目なのねあなたって」
「・・・あなたドラゴンの中でも変わり者って言われない?」
「よく言われます性分ですから・・・私はドラゴンの中じゃ変わり者です」
戦場のど真ん中でこんな敵同士だというのに私と彼は、苦笑していた
それは既に勝負がついてることへの清々しさからかもしれない
そう勝負はついている
私の勝ちよ
「でもね・・・」
「チェックメイト」
「はっ!」
彼が気づいた時にはもう遅かった
凍り付いた雨一粒一粒が、鋭利な刃となって彼に突き刺さる
「貴方に落ちる水は全て刃となる―」
「落雪華」
彼の背中には無数の氷の破片が刺さっていた
翼は氷の刃に切り裂かれ、背中を中心に多量の赤い血が流れている
そう、私達が対ドラゴン対策として考えた策
この雨の日を待ったからだった
ドラゴンは、生物の進化の過程で恒温動物の特性が残ってるのか体温が下がると動きが鈍くなる
だから、雨の日を進軍の日に選んだのだ
「まいった、強いな・・・完敗です」
そう言った彼は、私に眠るように覆いかぶさる
もう彼はこれ以上の戦闘は不可能と見て間違いないわね
私は、最後に彼にこう問いかけた
「・・・私達についていけばあなたもあなたの一族も助けてあげる」
私達の仲間になるか、と
「それも悪くはないかもしれません」
「ドラゴンは強い者が絶対正義です敗者の私は降伏しあなた達の仲間になりましょう」
答えは了承
彼の返答に真面目さが見て取れた
「・・・ところで重いんだけど」
その後私は彼の重たい体を必死にどかし
彼を捕虜として自軍の衛生兵に任せ、ダークの元へ向かった
一方、ダークとクロイツェルは
カルテの都の中心部
カルテの王が居城する城の玉座までやってきていた
ダークの前には高齢の男性でカルテの王・ヤコブと
その隣には、ダークの幼馴染であるセツナがいた
「・・・久しぶり、セツナ」
「ダーク・・・気安く名前で呼ばないで」
ダークは昔みたいに気軽にセツナの名前を呼ぶが
彼女は彼を拒絶した
「悪ぃな、昔の癖が抜けなくてよ」
「で、別にお前に昔話をしに来たんじゃねぇ」
彼女とのやり取りはいつものやり取りだと言わんばかりに
ダークはめんどくさそうに首を掻いて本題に移すことにした
「この国を渡せ、カルテの王・ヤコブ」
「・・・・・むぅ」
ダークは単刀直入にヤコブに降伏勧告を告げる
ヤコブは彼の言葉に首を捻って俯き考える
「彼に渡してはなりません王、多くの血が流れます!」
セツナは、ダークの降伏勧告にヤコブが従わないよう進言するが・・・
「じゃあここで死ぬか」
「・・・あんたはっ!」
セツナの言葉に対してダークは脅しをかけてきた
従わなければ、全員ここでお陀仏だと
彼の横暴な態度と要求に声を荒げてしまうセツナだったが・・・
「もはやここまでか・・・いいいじゃろう」
「ヤコブおじ様・・・何故・・・」
考えてたヤコブが顔を上げて出した結論はダークの降伏勧告の受け入れを意味する言葉だった
彼の言葉に困惑セツナは困惑の顔を隠せないでいた
しかし、ヤコブはダークに一つ
「だが、一ついっておこうダークとやら」
「力だけで全てが成せると思わぬことじゃ・・・」
「我々カルテ医術団はこれからも人を助けるじゃろう、敵味方関係なく」
そう告げた
これは、カルテという国が亡くなっても国の根底にある思想
カルテ医術団の人を助けるという精神までは亡くならないことを意味していた
そのことをヤコブはダークに面と向かって言ったのだった
「別にそれでいいぜ」
そんなヤコブの言葉にダークはあっさりと承諾の意味の言葉を返した
「リンドブルムは個人が自由に生きる国だ、手前らが何をやろうが手前らの勝手だ」
「もちろん、金や力や権力で従わせてやることはやってもらうがな」
ダークはカルテの人間が人を助けるのは自由でリンドブルムは自由な国だと告げる
しかし、力で従わせることは変わらないと付け足して
「お前もいいよな、王様が言ってるんだから」
王ヤコブの降伏勧告の受け入れを得たダークは
最後にセツナに聞いた
王様が決定したことに多数決も取ってない一大臣のセツナに言えることは無いだろう
それでも、聞いた
これはダークが幼馴染が変わっていないか確かめる意図もあっただろう
そしてセツナの返事は
「・・・・・」
「いいわ、貴方の未来についていく」
「それでも、私は人を救う」
「私には元彼女としてあなたの周りで不幸になる人間がいないように見守る義務がある」
セツナは一つ涙を振り飛ばし、新しい国、世界
それを見るため
その時、セツナはレティシア・スノーとすれ違った
「ダーク、遅れてごめんさない」
「いいってことよ」
「あなた・・・その体」
レティシアとセツナ二人の交わる未来へと繋がっていく
カルテの王・ヤコブの降宣言と同時に
リンドブルムとカルテ・ドラゴン同盟軍の両者の戦闘はすぐに収まった
医術大国カルテということもあって、両軍共に死者は数えれるほどに収まっていた
さらに、イワシの街やユニ王国と違って王の宣言後兵士はすみやかに降伏した
恐らく、自分が死んだときや捕まった時とのことも考えていたのだろう
今は、占領後の事務作業に追われていた
「終わったわねダーク」
「ああ、今までと違って血は流れたが死んだ奴は少なねぇな」
「だが・・・次はヤバいぜ」
「次は魔族の国、デビの故郷だからな」
デビの故郷であり魔族が支配する国・ジャシン
その王都の城の玉座に座る高位の魔族
の王様・ベルゼブブがいた
「最近デビの奴が面白いこと始めたらしいな」
「隣の女・・・レティシア・スノーっつったか?」
「俺のモンにしてやろ」
ベルゼブブは舌をペロリとなめ不敵に笑う
また一方で
リンドブルム領地:イワシ
小悪魔のアムが慌ただしく走っていた
あまりに急いでいたので、先輩悪魔デビにぶつかって勢い良くぶつかってしまう
「あうぅ」
「アムちゃんどしたの~だめだよ前見ないと~」
デビに子供みたいに抱きかかえてゆさゆさおもちゃみたいに揺さぶる
アムはあわあわしながら、手足をばたつかせて伝えてきた
「それどころじゃないですデビ様~・・・」
「クロノ神聖国の第三騎士団あの炎の狼が攻めてくるんですよ~」
「へぇおもしろいね」
デビは目を細めて冷たく笑いながら、アムは泣きそうな顔でクルクル踊っていた