宰相と予算請求
私は今、クロイツェル・ラ・ハラールの執務室に来ていた
彼の部屋には書類が所狭しと積み重なって置かれ
宰相たる彼の多忙さがうかがい知れる
そして今、私が提出した公衆衛生改善の案とその予算請求の書類を彼に見てもらったとこだった
承認されれば、後は印鑑を押してもらうだけだが・・・
「残念ながら今その書に印は押せない」
答えはノーだった
「一応聞いておくわ、何故かしら」
彼の答え自体は予想できたものだった
何故なら・・・
「スノーも知っての通り我が国は常に他国と軍事的競争状態にある」
「俺も公衆衛生は問題視しているが、今は軍事費それに工業と農業への資金投入が財政の多数を占めていて予算に余裕は無い」
「・・・」
そうだ、この覇道国家リンドブルム今絶えず他国と戦争状態
だけど彼だって公衆衛生と軍事どっちが大事かなんて優劣をつけれる問題じゃないことは分かっているだろうしね
しかし、同盟国とか味方のリンドブルムにとって今軍事力を弱めれば他国が一斉に食い物にするだろう
「はぁ・・・しょうがないか」
「もちろん、少ない予算で解決する案もあるわ」
出来ないことを嘆いていたってしょうがない、今出来ることをしなくては
「そのためには宰相のお力が必要ですの」
「ほう・・・」
私は彼を挑発するかのように、不敵に笑う
彼は、鋭い目をより一層深めて逆にこちらを目踏みするかのように訝し気に構える
まずは生きる上で一番大事な水の確保ね、公衆衛生の基本
現状、このリンドブルムの水源はお世辞にも綺麗とは言えない
無理な鉱山開発や農地の開墾で森が傷んでいて、水に不純物が混ざってるものも珍しくないし
降雨量も水量も人々が生活を送る上で少ない
地下水だって豊富な土地ではない
綺麗な水が不足することで起きる問題
それは、不純物が入った濁った水を飲むことで病気などで健康状態悪くなること、体を洗えないこと洗っても水量が十分で無いとシラミなどが十分に洗い流せない、水量が少ないせいで上下水道設備の流れが悪く詰まりやすく糞尿の匂いもキツイ
だから水が必要だ
それとできるならお金が豊富な国がいい
例えば、人工的な堤防やダムが作れるくらいの
その条件に当てはまる国、それは・・・
「その割いた軍事費とやらでやってほしいことがあるのだけれど」
「・・・」
私のその言葉を聞いて納得したかのように目を閉じる
「なるほどな」
そして彼は私に聞く
「・・・どこを攻める気だ」
どこに戦争を仕掛ける気だ・・・と
「オーブ王国を落とす、ダークにも相談してあるわ」
予算がない中で水資源を確保する方法、それは他国の水資源を活用すること
その一つとなるのがオーブ王国
オーブ王国は大国クロノ神聖国と覇道国家リンドブルムの間に挟まってる国で
森林に覆われた小高い峰々に囲まれた輸出できるくらい水資源が豊富な国だ
そのおかげでお金もそこそこ持ってる
オーブ王国が大人しく私達に従わなくても、緩衝材に持ってこいだしそれならそれで外交的交渉をしてやってもらいたいことがある
ま・・・本当だったら、この国で予算をかけてじっくり植林や川底の汚泥の除去をしていきたいけどね
私の言葉を聞いた彼は溜息混じりに皮肉めいた言葉を言う
「食えん女だ」
「あら、それはお互い様でしょ」
私はそれを目を閉じて、返答する
仕事の話はこれで終わったけど、まだ聞きたいことがある
「で、ここからはプライベートな話だけど・・・」
「有名な貴族の出で立ちの、クロノ神聖国の学園主席のあなたがここにいるのって・・・」
私は聞いた
彼、クロイツェル・ラ・ハラールは本来なら私が言葉にした通りの人間なのだ
どこかのエリート官僚でもしてるのが普通だろう
「ああ・・・」
クロイツェル・ラ・ハラールは窓の外を見て思い出していた
彼がダーク・ボォルグヘルとデビ・ルークとあった日のこと
俺と一緒にこねえか?俺の武力とデビの悪魔の力それにお前の頭脳が加えればこの国は最強だ
その言葉に彼は惹かれた
「俺はより強い魔法や戦闘術を研究していたら、ダークやルークにたどり着いた」
「それそこ、天才の俺なら天使だって殺せると証明したいからだ」
そうか・・・この人は私やダークと同じく神に弓引く堕ちた人間と言うわけか・・・
それにしても、悪魔に力を求めたということは・・・?
「・・・は、あなたまさかデビと・・・?」
彼もデビにあんなことやこんなことをされたというの!?
「し、してるわけないだろ!女のお前と一緒にするな!」
私の言った言葉に全力で否定してくる彼
「まったくこれだから胸部に余計な脂肪をぶら下げてる破廉恥な生き物は・・・」
彼は顔を赤くして、眼鏡を人差し指で何回も直しながらそっぽを向く
あれ・・・あれれ?この反応・・・
ひょっとしてこの人、女性に慣れてない?
そんな彼の姿を見てしまった私は思わず
笑ってしまっていた
「ぷっ・・・つ~~~!」
手で口を抑え止めようとするが、止められない
だってしょうがないじゃない、いかにも冷徹鬼畜そうな眼鏡の見た目の男が
「何を笑ってる、用が済んだなら行け」
私はこれ以上彼を怒らせないようそそくさと退散していく
しばらく口のにやにやが止められなかった