87.隊服について
隊員たちとの鍛錬を再開したブライアンと別れを告げ、スレイとエドガーは訓練場を後にした。
いつの間にかエリスの分身は姿を消している。模擬試合の観戦という役割を終え、魔術を解除したのだろう。
「スレイ殿、またいつでも来てくれ。誰かしらは常駐している筈だ。今日は私とブライアンしか隊長は居なかったけどね」
二人は廊下を並んで歩きながら会話をしていた。
「聞いてなかったが、魔術剣士団に隊長は何名居るんだ?」
「総勢で六名かな。他の実力者はエリスと総長が居る」
エドガーとブライアンの他に、四名の隊長がいる事になる。
総長というのは役職名からすると、魔術剣士団の総指揮官に当たる人物だろう。
「……そういやエリスも魔術剣士なのか」
「一応は。エリスの魔術は魔術剣士団一だね。君の友人であるヘンリー殿にも負けていないと思う。剣技は……スレイ殿の方が大分上手だよ」
エドガーは、エリスの魔術については褒めるように、そして剣技については遠慮がちに告げた。
ヘンリーに負けない魔術の実力という事はSランク認定者だろう。これについてはSランクの魔術である分身体を行使出来るので間違いない。
剣技については、スレイが大分上手という事はDランク認定相当だろうか。全くの素人ではないが、初心者レベルといった技量に該当しそうだった。
「エリスは本質的に純魔術師だと思う。魔術剣士団に所属しているという事で、剣を嗜みたいという思いが強いようだが……花開くとしても、まだまだ先だろうね」
この言い方からすると、エリスには剣の才能がないと暗に言っているようにも聞こえた。
魔法学院を成人を迎える前に卒業するほどの魔術の使い手である。生まれ持った才能を持つ天才である事は間違いない。
「俺は、不得手だとしてもある程度武器が扱えるのは悪くないと思うぜ。接近を許した時に対応できるだけで大分違うからな」
スレイはエリアやヘンリーに杖による戦闘技術を教えた事がある。
二人とも接近戦は不得手だが、暇な時間にスレイが鍛錬した為、全くの素人ではなかった。
「エリアやヘンリーも、ある程度だけど杖で戦えるぜ。俺が回避の技術を教え込んだからな」
「あの二人が。……なるほど、本当ならば、スレイ殿は隊長に向いているかもしれない」
「……いや、俺はそういうのはガラじゃないと思うけどな。指示されて動く方が慣れてるし気が楽だから」
「やってみないと分からないよ。私もそうだったからね。……隊長の条件だが、剣技か魔術のどちらかがAランク認定かつ、隊員の指揮と技術指導が出来る事だ」
Aランク認定は剣技も魔術も現状では到達出来ていない。
隊長の適性以前に、やはりスレイにとっては高い壁だった。
◇
「お疲れ様です」
玄関まで到着すると、受付に居るエリスが話しかけてきた。
訓練場に居た分身体の魔術によって作り出した分身ではなく、正真正銘、本物のエリスである。
「ああ、本当に疲れたな。……エドガーが強敵だったっていうのが大きいか」
「そんなお疲れなスレイさんに隊服を用意しておきました。フリーサイズの予備ですが持っていって下さい」
「……エリス、いいのか?」
「打算によるものです。こうやって渡しておけば、また来る可能性が高くなるのではと思いました」
エリスは包み隠さず、はっきりとした物言いをした。
買いかぶられている気がしたが、評価される事は悪い気はしない。エドガーとの模擬試合で善戦した成果だろうか。
「一応、購入した後は返却して欲しいですが。……どうしますか。オーダーメイドにするなら、提携している衣服屋に行きたいのですが」
「……それは今からか?」
「スレイさん次第です。行くのであれば私が分身体を使って案内します」
スレイは唐突な提案に迷ったが、隊服を借りっぱなしというのは悪いので、自分用のを作っておくべきだろうかと思った。
まだ日が落ちるまで時間はある。雨が降っているのが気がかりだったが、分身体による案内という事で、お言葉に甘えようと思った。
「それじゃ、エリスに案内を頼もうかな。オーダーメイドとなると時間がかかるだろうから、早いほうがいいだろうし」
「そうですね。では早速出発しましょう。……エドガーさん、一言だけ」
「……何かな」
「スレイさんに余計な事を言わないで下さい。私が剣は得意ではないとか。傷つきます」
エリスの冷たげな声色にエドガーは表情を歪め、気まずそうな表情を見せた。失言だと思ったのだろう。
お互い声量を絞って会話したつもりだったが、廊下での会話が聞こえていたのかもしれない。
「二人ともどうしてって顔をしていますね。……すみません。五感強化の魔術で廊下の会話を聞いていました」
口は災いの元である。スレイは何か失礼な事を言わなかったか、先ほどの会話を思い出そうとしていた。




