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81.熱意と才能

「暗い話になってしまいましたわね。……ああもう、どうしてスレイにこのような話をしてしまったのかしら」


 身の上の話を終えたフレデリカは、やや顔を赤らめ、恥ずかしそうに呟いた。


「どうしてだろうな。……以前、俺が冒険者パーティーで冷遇されていた話をしたからじゃないか。それで話しやすかったとか」

「……シンパシーを感じたという事かしら。……そうかもしれませんわね」


 フレデリカは自らを納得させるように、スレイの言葉を肯定した。


「俺としては、フレデリカお嬢様をよく知る事が出来てよかったよ」

「そうですの? ……わたくしの身の上を知って引かれたと思いましたけど」

「いや、正直に白状すると、今まで大貴族に対してかなり偏見があった。公爵令嬢となれば苦労知らずなんだろう思ってたけど、俺の誤解だったみたいだ。……魔術の才能で身内に冷たくされてたのか」


 スレイの問いかけにフレデリカはゆっくり頷いた後、言葉を紡ぎ始める。


「……家の名誉に関わる事なので、誤解のないように言っておきますわ。期待をかけられなかっただけ。虐められていたとか、そういった事はなくてよ。……わたくしに変成術の書物を与えてくれたのもお父様ですし、このようにルーンサイドで錬金術師としての修行を許してくれたのも、とうぜん家の理解があっての事」


 フレデリカは言葉を一旦区切り、さらに続ける。


「それに、わたくしには魔術や神聖術の才能がなかったのだから……仕方のない」

「だったら、錬金術師として大成して見返してやればいいさ。フレデリカお嬢様は変成術の才能がある」


 卑屈になりかけたフレデリカの言葉を遮って、スレイは力強く伝えた。

 ノースフィールド公爵家の事情も知らない部外者である。無責任な励ましとも言えたが、彼女の落ち込んだ姿を見たくないと言う気持ちがあった。

 才能の事で卑屈になっていた、少し前の自分に姿が重なったのかもしれない。


「魔術や神聖術の才能に重きを置くという家の価値観が悪いとまでは言わない。……だったら、変成術の才能という新たな価値観を吹き込んでやればいい」

「スレイ……そのような事が、わたくしに出来ると思いますの?」

「できるんじゃないか。錬金術師試験を完全合格出来たのはフレデリカお嬢様だけだからな。……もっと才能に自信を持っていいと思うぜ」


 しばしの沈黙。

 するとフレデリカの蒼い瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。


「やだ。わたくし………い、言われなくてもそのつもりですわ! わたくし変成術にかけていますの。……絶対に見返してやるつもりですわ」


 フレデリカは慌てて涙を拭くと、まくし立てるように声をあげた。


「その意気だよ。認められたいって気持ちが原動力になるなら悪い事じゃないだろ」

「ふん。……スレイは認められたいといった気持ちはありませんの? ……わたくしより才能があるのに」

「パーティーを組んでいた頃は結構あったけど、今はそれほどじゃないな。……もしフレデリカお嬢様と同じ立場だったら、同じ事を考えていたと思う」

「スレイは謙虚ですわね。……わたくしは俗物ですの。認められたいという欲求と熱意だけでここまで来ましたわ。……その熱を維持しなくてはいけないと思いますの。……だから」


 フレデリカはそこで言葉を区切った。しばしの間が空く。


「だから?」

「……もうしばらくの間、わたくしのライバルで居て下さいまし」


 スローライフ気味の生活に移行しているスレイは、上級錬金術師を目指し忙しくしているフレデリカのライバルとしては正直釣り合っていない。

 自身の変成術もAランクより上の技術は亡き師匠から引き継いだものである。彼女のようにたゆまない情熱と努力で勝ち取った能力ではなかった。

 ただ、フレデリカの熱意を損なうような事だけはしたくなかった。彼女に強い尊敬の念を持っている事は間違いのない事実である。


「……ああ、それはもちろん。俺たちは錬金術試験でしのぎを削った唯一無二のライバルだろ」

 

 不敵に笑うスレイ。その作り笑いにつられたのかフレデリカも久々に笑顔を見せた。


「……長々と失礼。そろそろ帰らせて貰いますわ……この傘のお礼はいずれ」

「気にしなくていいよ。何ならずっと持っていってくれてもいい」

「貸し借りはなし。……ライバルとしては、それが望ましいと思いますの。そうではなくて?」

「ああ、そういう事なら。……フレデリカお嬢様」

「……何ですの?」


 スレイは言うべきか迷ったが、それを伝える事にした。

 フレデリカのアトリエが順風満帆ではないと聞いたからである。


「何かあったらいつでも相談してくれ。……これでも元冒険者だからな。厄介ごとの解決には慣れてるから」

「……これ以上、スレイに借りを作ったら返すのが難しくなりますわ」


 そう言いながらフレデリカは溜息をついた。

 厄介ごとは無い。そう否定してくれなかった事が少し心配だった。

  

「……それではスレイ、ごきげんよう」 

「ああ、またな。フレデリカお嬢様」


 借りた傘を手にしたフレデリカが、弱まらない雨足の中を歩くのを見送っていた。

 スレイも目的であるストレングスポーションを魔術剣士団の兵舎に届ける為、変成術によって即席で作った傘を手に再び歩き出した。

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