5 初収穫
5話投稿です。
よかったらどうぞ……
あれから何度も謝ってようやく機嫌が直ったクレアを畑に連れてきた。
俺の畑は井戸から1mほど行った場所にある。
畑の大きさは20m四方で、そこに高畝を作っている。
作物の作り方は俺の場合は特殊で、種や苗を必要としない。
高畝に拳くらいの穴をあけて、そこに育てたい野菜を念じて魔力を放出すれば出来てくる。
まぁ、温度の時と似たようなやり方で出来てしまう。
これもすべて結界のお陰だけどな。
これで作物は出来るが、当然だが出来ない物もある。
まず、調味料が出来ない事。
塩とか味噌とか醤油と念じても作れはしない。
我が家の食卓には味付けが出来ないでいるので、どうしようか現在悩み中だ。
塩は海水を煮ればいいと思うがここは森の中で海水など手に入らない。
味噌、醤油、胡椒などは作り方すらわからない。
なので今のところ、そのままで食べられるものが多い。
ラインナップはトマト、大根、きゅうり、イチゴだ。
俺の畑は肥料はいらないが水は必要なので毎日1回水撒きをしなければいけない。
雑草取り。
これが一番厄介で、魔法で作物を作ってるからか毎日驚くほど生えてくる。
雑草は作物の栄養を奪ってしまうのですべて取る必要がある。
虫取り。
結界内でも作物に付くくらいの虫は防げないみたいで、葉っぱの裏側などにたまに見かける。
俺の畑の基本作業は水撒き、雑草取り、虫取りの3種類になる。
これを総じて日課と呼んでいる。
「……という訳で、クレアにも雑草取りをやってもらう」
殴られた右の頬がまだ痛むがそこは我慢だ。
「はい!」
クレアは気合が入ってるのか、やる気満々だ。
「やることは単純だ。見てろ……」
トマトがなってる高苗に行き、そこに生えてる雑草をひょいと取った。
クレアはパチパチと拍手してる。
いや、これで拍手しないでよ。
「凄いです!それが雑草なんですね」
「いや、凄くはないが。まぁ、これが雑草だな。これを取るのを手伝ってもらう」
クレアはグッとこぶしを握り締めて俺の傍に来た。
そして雑草をひょいと取る。
「そうそう。それだけの作業だから難しくないだろ?」
「これなら私にも出来そうです!頑張ります!!」
クレアは嬉しそうに雑草取りを始める。
雑草取りをそんな嬉しそうにやるやつもいないだろう。
俺は苦笑してクレアと一緒に雑草取りを始めた。
▽▽▽▽▽
「……腰が痛いです」
10m程進んだあたりでクレアがそう言った。
「んーっ!」と伸びをして腰をトントン叩いてる。
「ずっとしゃがんだままだからな。クレアは人族なんだから身体魔法で強化してやれば、効率もいいし早く終わるぞ」
俺も1人でやってるときは身体魔法で強化してやっている。
今は2人でやってたし、クレアも身体魔法使っていなかったので使わなかったが。
「……なるほど。身体魔法はそういう使い方もできるんですね。では……」
クレアは集中して体に魔力を流し始める。
その膨大な魔力は俺の軽く2倍以上。
「クレア、やめ……」
止めてという前にクレアが走り出す。
地面を蹴る度に凄まじい突風が吹き荒れる。
トマトの高苗が吹き飛ばされた……
▽▽▽▽▽
「……いや、もういいから。高苗は直せるから大丈夫だよ」
クレアはあの後何度も何度も謝っていた。
今もしょぼーんと項垂れている。
「それにさ、クレアのせいじゃないから」
そう、これはクレアの魔力量を完全に見誤った俺のせいだ。
「だからもう気にするなよ」
クレアの頭に手を置いて優しく撫でる。
「…………え、えへへ」
何度か撫でているとクレアに笑顔が戻ってきた。
どうやらなでなでは効果的なようだ。
効果的だが、サラサラしてる綺麗な髪をずっと撫でるのは心臓に悪い。
▽▽▽▽▽
「…………これでよしっと」
高畝を直し、日課を終えた俺たちは綺麗になった畑を眺めている。
あれからもクレアは頑張った。
俺が高畝を直してる間、水撒き、虫取りにと奮闘していた。
まぁ、初めて虫を見つけたときは「ぎょえええ!」と王女とは思えない言葉を発していたけど。
「……これで今日は終わりなのですか?」
「ああ。毎日これの繰り返しだ」
農業は似たような作業の繰り返しだ。
しかも、俺の作る作物は魔法で作っているので1日たりともさぼれない。
大変だが、嬉しい事もあるので頑張れるのだ。
その嬉しい事もクレアに教えなきゃいけないよな。
「…クレア、あのイチゴわかるか?」
クレアは俺の指差したイチゴを見た。
イチゴはぼんやりと光を放ってる。
「ええ、あのちょっと光ってるイチゴですよね」
「あの光りは収穫の合図だ」
クレアは驚いて俺を見る。
普通、収穫のタイミングは目で確認するのだが、俺の畑ではぼんやりと光る。
イチゴなどの目に見える物はその実が光り、根菜などはその葉が光る。
「……取ってきな」
取るのを躊躇っているのかクレアは少し考えた様子だったが、やがて意を決して近づき、プチっとそのイチゴを取った。
「クレアの初収穫だな」
振り切ったクレアは満面の笑みを浮かべてる。
「……はい!」
読んでくれてありがとうございます。