43 稲
目が覚めるとベッドの上だった。
外はぼんやりと明るくなっていたので、クレアに気絶させられた後、誰かが運んでくれたのだろう。
それにしても、夕飯を食べ損ねたから腹が減ってしょうがない。
ぐ~っとなる腹を擦りながら俺は居間へと向かった。
「「ごめんなさい!」」
まぁ、案の定というか起きてきたクレアとリズに謝られた。
俺が気絶した後、戻ってきたサラにこっぴどく怒られたそうで2人ともしょんぼりしていたが、頭を撫でるとだらしなく頬を緩ませてご機嫌に朝食を食べていた。
2人ともチョロ過ぎだと思う。
さて、味噌が出来るとなると思い浮かべるのは味噌汁だろう。
そして、味噌汁と双璧をなすのがご飯。つまり米である。
そんな訳で、日課が終わり昼食を食べ終えた俺は稲を作るため、機織り小屋より西にだいぶ離れた場所に来ていた。
稲を作る為には田んぼが必要なので、まずは田んぼ作りから始める。
20m四方を50cmほど掘り、水が流れるよう調整した井戸を設置した。
この時、気を付けるのは水が流れ過ぎないことだ。
木の板で水が一気に流れるのを防ぎ、適量の水を田んぼに流していく。
(朝食前に一度見に来なきゃいけないな)
水の調整は人力でやるしかないので、手間がかかるがいい米を食べるためには惜しんではいけない。
俺はサンダルを脱いで水が少し張られてきた田んぼに足を踏み入れた。
足が泥に取られて動きづらいが我慢我慢。
稲が出来たけど水に流されましたじゃ情けないので念のため畑より深く拳を入れて魔力を放出する。
結局、その日のうちに全部植えることは出来ず明日に持ち越しとなった。
まぁ、田んぼ作りや井戸造ったり木の板で固定したりで時間が取られたからしょうがないか。
俺は、田んぼ用の井戸で泥だらけの足を洗い家に帰った。
家に帰るとリズが真剣な顔をしながらクレアとサラに話をしていた。
「どうしたの?」
「あっ! お兄ちゃん。実はちょっと困った事が起こっているの」
リズは俺を見て一瞬笑顔を向けたがすぐに真剣な顔に戻っていった。
クレアとサラは少し青ざめてる気がする。
「んー、何か問題発生かな? 新しい作物なら作ってあげるけど」
クレアがゆっくりと首を横に振る。
「いえ、ここの事ではなく私の国に関してなのです」
人族の国? 【ニルヴァースの森】からではミッドフォード国の状況はわからないはずだが?
「お姉ちゃんから念話があって、ミッドフォード国がエルフ狩りをする為リズの島に向かってるらしいの」
「なんだって!?」
「エルフは元々戦いが好きじゃないし、人族と魔族の戦争に巻き込まれたくないから大陸を離れたのに……どうして……」
リズが涙を滲ませながら呟く。
エルフの魔法は念話だ。人族や魔族と比べて戦いに向いてないことは一目瞭然だろう。
「アルさん。この森を出る方法はありませんか? 私、お父様に話をしに行きたいのですが……」
反逆者の汚名を着せられてるクレアでは国に戻ったところで話を聞いてくれるとは思えない。
いや、その前に捕まって牢屋に入れられてしまうだろう。
「アルさんの仰りたいことはわかっています。私が行ったところで話を聞いてもらえないでしょう。ですが、罪もないリズちゃんのお姉さんたちがひどい目に合うのを黙って見てるわけにはいきません」
「クレア様。私もお供します」
「クレア、サラ。ちょっと落ち着いてくれ。森を抜ける方法は考えてはいたけど、ルリがまだ幼いから俺の考えてることが実行できるとは思えないんだ」
俺の考えてた計画はダクロウ君に乗って左右をフェン君とルリで護衛してもらうシンプルな計画だった。
だが、この方法はルリが大人になった時が条件だ。
トートフォックスが狩れると言っても他の魔獣たちに大勢で囲まれたら幼いルリだと対処が難しいと思う。
ダクロウ君が本気で走れば今度はクレアたちが耐えられない。
「ですが、確率は低いかもしれませんが抜けられるかもしれませんよね? なら私はそれに賭けたいのですが」
「その前に魔獣たちに殺されたら意味がないだろ? クレアもこの森の怖さを知ってるはずだ」
「そ、それはそうですが……」
【ニルヴァースの森】は甘くない。
奇跡を信じて賭けに出たところで殺されるのがおちだ。
だが、ルリが大人になるまで待つには時間がなさすぎる。
どうすればいいんだ……
「……それでは、わたしが一緒に行きましょう」
いつの間にか玄関に女性が立っていた。
腰まで伸びた綺麗な金髪に、黄金色の瞳。
美の象徴とも言うべきその顔と抜群のプロポーションは見る者を圧倒する。
創造神『ニルヴァース』
玄関で立っている女性は大陸でそう呼ばれている。
 




