40 酵母とワイン
「うん。こんなもんかな」
発酵小屋が出来てから10日ほど経過した昼食後の事。
俺は発酵小屋で出来上がった麦酵母を指で突いて確認していた。
出来栄えに満足していると引き戸を開けてリズが中に入ってきた。
家のトイレと水浴び場は前後に開閉する開き戸タイプのドアだが、発酵小屋の玄関は横にスライドさせる引き戸タイプにしてある。
「どう? お兄ちゃん」
「ああ、リズのお陰で酵母は出来たよ」
俺はそう言ってリズの頭を撫でてあげた。
撫でられてたリズは照れたような顔で微笑んでいる。
「えへへ。お兄ちゃんの役に立ててよかったよ」
リズは酵母や麹を島に居た時から何度か手伝っていたらしく、作り方もある程度知っていたので教えてもらうことになった。
「でも、麦酵母は一番簡単だし、誰でもできるんだけどね」
確かに麦酵母を作るのはリズの言うように簡単だった。
麦と水を混ぜて常温で放置、泡が出てきたら0℃の場所でまた放置するだけだ。
これを小麦粉に混ぜて使えばふっくらとしたパンが出来るとリズは言っていた。
酵母をリンゴやブルーベリーにするとまた違ったパンになるらしいので機会があったら試してみよう。
「言われれば簡単だったけど、知らなくてやろうとしたら大変だったぞ。だからリズには感謝してるよ」
ニコッと笑うとリズは俺にぎゅーっと抱き着いてきた。
「はぅ~。お兄ちゃんだ~いすき!!」
ストレートに気持ちを伝えてくるリズに赤面しつつ俺は暫くリズに抱きしめられていた。
「アルさ~ん。リズちゃん見ませんでし……ってななな何しているのですか!」
「あっ! これは違うぞクレア。リズがいつものように抱き着いてきただけだ」
「いつもうらやま――じゃなくて、リズちゃん! アルさんから離れましょうね!」
ぐいっと引き離し、リズを引きずったまま小屋を出ていく。
「あ~ん! クレアおねえちゃんの意地悪~!」
「意地悪じゃありません! 今日は機織りを教えてもらうんですから早く行きましょう!」
「お兄ちゃん。た~す~け~て~!」
ズルズルと引きずられていくリズは必死に俺に向かって手を伸ばしているが、クレアに教えるのも大事な仕事だから我慢してもらおう。
俺は去っていくリズに手を振って小屋に戻り酵母作りを再開した。
▽▽▽▽▽
その日の夕食後、サラが小樽を持ってきた。
俺たち3人がキョトンとしてる中、サラはコップに注いで俺とクレアの前に置いた。
「ワインを作ってみました。コップ1杯分しか作ってませんが試飲をお願いします。リズ様はまだ未成年ですからジュースで我慢してください」
サラはそう言うと自分のコップにワインを注ぎ、リズのコップにはブドウのジュースを注いでいく。
「む~! リズも一度くらい飲んでみたかったけどな~。来年になったらぜ~ったい飲ませてよね!」
リズは渋々といった表情でコップを受け取りコクコクと喉を鳴らした。
サラもクレアもコップに口を付けチビチビと飲んでいたので、俺も飲み始めた。
まだ完全に熟成されていないのでアルコールはそれほどでもないが、ブドウの柔らかい甘さと程よい酸味でさっぱりとした飲みやすいワインに仕上がっている。
「俺としてはもう少し熟成されたほうが好きだけど……これでも十分美味い」
「私はこのワイン飲みやすくて好きです。ふふ、美味しくてついつい飲んでしまいますよ」
「では、今度は2種類作ってみますね。ふふふ……」
なんかサラの顔が悪徳貴族みたいな顔をしてるんだが、気のせいかな。
「サラ、何かしたのか?」
「失礼な! 何もしてませんよ。私はただワインを作ったので試飲して欲しかっただけです」
無表情を装っているけど、微かに口元を歪めているから碌なことかんがえてないなこいつ。
「う~、ひっく。なんかふわふわします~」
たった1杯でクレアは酔っぱらってしまっていた。
クレアってお酒弱かったんだな。
「おおー! クレア様。そんな酔ってしまわれて大変です。ささ、私が介抱して差しあげましょう」
嘘くさい演技でサラはクレアを担いで部屋に戻ってしまう。
やっぱ、碌なこと考えてなかった。
「あ、あはは、サラおねえちゃんは相変わらずだね」
リズも呆れているのか乾いた笑いをしている。
俺も同感だと頷くしかなかった。
「さぁ、クレア様。楽にしてくださ……へぶっ!」
サラの奇声が聞こえたと思ったらクレアがゆらりと部屋から出てきた。
「クレアおねえちゃんだいじょう……ぐぎゃっ!」
リズが慌てて近づくがクレアに手刀で気絶させられた。
もしかして、俺もピンチなんじゃないか。
「あ~! あるひゃんだ~。うふふ、あ~るひゃん♡」
クレアは俺にもたれ掛かるように抱き着いてきた。
違った意味でピンチだ俺。
「ク、クレア。ちょっと落ち着いて」
「ん~? リズちゃんはいいのにわたしゅはダメなの~?」
甘い匂いがする柔らかい身体を押し付けられ、耳元で囁かれた俺は理性を保つのに必死だった。
「うふふ。あるひゃんのお口いただきま~す」
「えっ! んぅ!?」
クレアの両手が俺の頬を固定したと思ったら柔らかそうな唇が俺の唇に押し当てられた。
舌を入れてくるキスではなく、ついばむようなキスをクレアは何度もしてくる。
「ぷはっ! ふふふ。あるひゃんにキスしちゃいまちた」
唇を離したクレアは上気させた顔と艶めかしい眼差しで凄く官能的に見えた。
「……ぐっ!……クレア。これ以上はホント無理だから……」
我ながらよく耐えてると思うが理性崩壊は時間の問題だ。
もうこのまま押し倒してしまおうかと思っていたらクレアからすーすーと可愛い寝息が聞こえてきた。
「あ、あぶなかった……」
心の中で少し残念がってる自分に腹を立ててクレアをベッドまで運んだ。
今日の俺は恐らく大陸一強かったと誇ってもいいだろう。
といっても、自分のベッドに入ってもクレアの色々な感触が忘れらず悶々として全然眠れなかったけどさ。
アルバート君にご褒美をwww いや、生殺しかな( ̄m ̄〃)ぷぷっ!
読んでくれてありがとうございました!




