4 ダクロウ君とリビデ君
4話目です。
良かったら読んでください。
「………ん……んっ……」
私は窓から差し込む朝日で目を覚ましました。
「………ここは?」
お城でいつも寝ているふかふかのベットとは程遠い感触を背中に受けて体を起こします。
暫くボーっとしてると徐々に昨日の事を思い出しました。
突然お兄様に反逆者の汚名を着せられ、国を追われることになった私。
お城から逃げるのを手助けしてくれた私専属の従者『サラ』。
サラが用意してくれた国一の駿馬で【ニルヴァースの森】を目指しました。
【ニルヴァースの森】には創造神ニルヴァース様がいると噂で聞いていたので、創造神ニルヴァース様なら私の汚名を払拭してくれると思ったからです。
ですが【ニルヴァースの森】は一度入ったら二度と戻れない場所とも言われています。
その言葉は本物で、森に入ってすぐ体長1mの『トートフォックス』に襲われました。
私の身体魔法は国でも最上級ですが、トートフォックスには勝てません。
何匹かのトートフォックスを振り切ったのですが、トートフォックスより凶暴な『モルスボア』に襲われ私は馬から投げ出されました。
私は馬に「ごめんなさい」と謝り身体魔法を掛けて全力で走りました。
魔力が続く限り身体魔法を掛け続け、中央を目指して走りに走りました。
枝に何度も引っ掛けたのか、ドレスはボロボロになってましたが気にせず走り続けました。
今思えば、【ニルヴァースの森】の三大脅威と言われてる『ダークフェンリル』、『デスグリズリー』、『ツインエレファント』、に出会わなかったことが奇跡だったのです。
気の遠くなるほど走り続け、魔力も底を付きそうになった頃、何かの結界の中に入った感じがしました。
そして、そのまま意識を失ったのです。
「あっ!おはよう。目が覚めてたみたいだね」
昨日の事を思い出していたら、声を掛けられ現実世界に戻されました。
「……おはようございます」
声をかけて来たのは私を助けてくれた『アルバート様』でした。
アルバート様、いえ、アルさんはこの【ニルヴァースの森】で1人自給自足の生活をしているお方です。
アルさんは『死神アルバート』と呼ばれていて、なぜ死神と呼ばれているのですか?とか、どうしてこの森で生活しているのですか?とか、ここに凶暴な魔獣が襲ってこないのはなぜですか?とか、色々聞きたいことはあるのですが辞めておきましょう。
いつか、アルさんから話してくれれば嬉しいです。
「よく眠れた?」
アルさんはそう言って家の中に入ってきます。
「はい。ぐっすり眠れました」
「そりゃよかった。城で寝てた時のベットとは比べ物にならないくらい質素だろうから心配してた」
あははと笑いながら私が寝ていたベットを指差します。
「ベットといっても丸太を半分に切って並べた上に木の皮を何重も敷いて、その上に大量の葉っぱを乗せただけだけどね」
そう言って苦笑していますが、私は地面に寝るより何倍も快適だったので文句はありません。
「ふふ。私にはいいベットですよ」
「……そっか、ならこれからも使ってくれ」
アルさんは照れているのか頭をポリポリと掻いています。
「取り敢えず、井戸で顔でも洗ってきなよ。その後ダクロウ君とリビデ君を紹介するから」
「あっちにあるから」とアルさんが教えてくれたので私は頷くと家の外に出ました。
井戸はアルさんの家から東に2mほど歩いた場所にありました。
その先には畑が広がっています。
井戸と言っても街にある立派な井戸ではなく、直径1mくらいの周りに丸太が置いてあるだけで、滑車も付いてないようです。
私はしゃがんで水を掬い顔にバシャバシャと掛けます。
冷たい水の気持ちよさに私の眠気も吹き飛びました。
タオルなんて物はないので顔を横に何度か振って終わりです。
家に戻ろうと振り返ると、アルさんの作った建物が見ました。
昨日、トイレと食糧庫を教えて頂きましたが、あの時は暗くてよく見えませんでした。
家の高さは3mくらいでしょうか。
トイレと食糧庫は高さ2mといったところです。
すべての建物に言えるのは壁が土の壁、そして屋根が三角形ではなく平である事。
簡単に言えば、アルさんの作った建物は四角い箱に出入口と窓を開けた建物と言えます。
誰の力も知恵も借りずに作れるなんてアルさんは凄い人だなと改めて思いました。
「……あれは何でしょうか?」
遠くから全身鎧の人と真っ黒な犬がこっちに向かって歩いてくるのが見えました。
全身鎧の人はわかりませんが真っ黒な犬は知っています。
「ま、まさか『ダークフェンリル』ですか!?」
余りの恐ろしさに私は気を失ってしまいました……
▽▽▽▽▽
「…………はっ!」
がばっ!と起き上がるとそこはベットの上でした。
目の前にはアルさんが申し訳なさそうにしています。
「……良かった、目が覚めた。……ごめんな。ダクロウ君は『ダークフェンリル』って言うの忘れてた」
ダークフェンリル、それは【ニルヴァースの森】三大脅威の1匹。
全長5mになる犬型の魔獣で、その強大な力は国すら亡ぼすと言われています。
そんなダークフェンリルがアルさんの紹介したい人?いや魔獣でしょうか。
「ダクロウ君は『ダークフェンリル』だけど俺の家族だから仲良くして欲しい。クレアに危害を加えることは絶対ないから!」
アルさんが一生懸命説明してくれています。
私もここに住む事になった一員ですから、家族と言ったダクロウ君を信じてあげなきゃいけませんよね。
でも、、その、、下着が濡れているので洗いたいんですけど……
「……さっきは突然だったのでびっくりしてしまっただけです。アルさんがそう言うなら大丈夫なのでしょうから平気です」
「ありがとう!じゃあ、改めて紹介するから外に行こう」
「はい!」
気合を入れるとアルさんの後について行って外に出ました。
「ダクロウ君とこっちがリビデ君です」
外に出るとダークフェンリルと全身鎧の人が待ってました。
ダークフェンリルと対峙するのはまだ怖いですが頑張って耐えます。
また下着を濡らすわけにはいきません!
「…ク、クレアです」
そう言うと2人は器用にお辞儀してくれましたので、それを見たら大丈夫と思えてホッとしました。
「アルさん、このリビデ君は誰なんでしょうか?」
「あー、リビデ君は『リビングデッドアーマー』で人族でも魔族でもないんだ。見た目は人型だけど」
「リビングデッドアーマーですか?」
そんなのは聞いたことがありません。
「リビデ君は『イシュタ』の魔力で作られてる。中身のない兵士と思ってくれて問題ない。大陸にこの1体しかいないからクレアも知らなくて当然だ」
イシュタとは『死神イシュタ』様の事でしょうか? アルさんの謎がまた一つ増えました。
「……わかりました。ダクロウ君、リビデ君これからよろしくお願いします」
2人?に深々とお辞儀して紹介は終わりました。
「じゃあ、朝ごはんにしようか」
「……は、はい。で、ですがその前に、あの…」
「ああ、下着洗ってくればいいよ。俺はちゃんと見ないようにするから」
私は恥ずかしさの余りアルさんを思いっきり殴ってしまいました。
読んでくれてありがとうございます。