33 リズ
リズと名乗った少女は微かに震えていた。
「俺はアルバート。もう起きて大丈夫なの?」
安心させるように優しく声をかけるとリズは恐る恐る顔を上げて俺を見上げてきた。
「う、うん……」
「そうか。なら良かった」
笑顔で答えてあげるとリズも安心したのか可愛い笑顔を見せてくれた。
「……それじゃあ、家に帰ろうか。リズもなんで森に居たのか教えてくれる?」
「うん!」
ご機嫌になったリズは嬉しそうに俺に抱き着いてきた。
「ちょっ! リ、リズ??」
「えへへ。お兄ちゃん暖かい」
リズはスリスリと俺の胸に頬ずりをしてくる。
えっと……俺はどうすればいいの??
「アルバート様はやっぱり犯罪者ではないのでしょうか?」
「おい!それを言うのやめてくれ」
「……リズちゃん。……羨ましい」
「クレアも何言ってるの? え、えっと、リズ?そろそろ離してくれるかな?」
リズはふるふると首を横に振り、離れるどころか更にギュッと力を入れてくる。
俺はリズが離してくれるまで為す術なく立ち尽くすのだった。
▽▽▽▽▽
リズは姉の『レティシア』と一緒にドワーフの島に行く途中だったらしい。
しかし、突然のあらしで乗っていた船は大破し海に投げ出され、意識が戻った時にはこの大陸の浜辺に打ち上げられていたそうだ。
「……みんなの所に帰ろうと船がありそうな町を探してたら道でいきなり男の人たちがリズを…」
そこまで言うとリズは俺にしがみついてきて泣き出してしまった。
「あー、そこは言わなくてもいいよ。怖かったことを思い出させてごめんな」
泣きじゃくるリズを優しく抱きしめ背中をポンポンと叩いてやる。
乱暴された後は見当たらなかったから襲われそうになったところで逃げたのだろうが、女の子には怖い思い出だ。
「そいつら許せませんね」
「ええ。サラの言う通りです」
2人は怒りを露わにしているがもちろん俺もだ。
だが、人族かも魔族かもわからないし、俺たちは森に居るから手も出せない。
2人もそれをわかってるのか何もできない悔しさにグッと唇を噛んでいる。
「…………ありがとうお兄ちゃん」
しばらく泣いていたリズだったがそう言って俺から体を離しニコッと笑った。
「もういいのか?」
「…………やっぱダメ♡」
そう言って再度抱き着いてくるリズ。
おーい、リズさん、話し進まないよー。
「ゴ、ゴホン!!それでリズちゃん。それからどうしたのかなー??」
わざとらしい咳をしてクレアが先を促す。
クレアナイス!と言いたいけど演技下手だな。
「…………ぐ、ぐす~ん……また思い出しちゃったからもう少しこのまま♡」
リズも演技下手だな。
サラ……なんとかしてくれよ……
「zzzzz」
なんで寝てるの!ここはサラの出番じゃないの!?
「わ、私も国を追い出されたことを思い出して泣きそうです。うう~アルさん、私もいいですか~?」
いいって何が!?てか、クレアさん。演技下手なの気づいてます??
そんな俺の心の声などお構いなしに横にぴとっとくっついてくるクレア。
「クレアもリズもちょっと離れて。 サラ!起きて!!なんで寝てるの!?」
「「……ぐす~ん♪……」」
「ぐす~んじゃないよ2人とも。どう見ても泣いてないでしょ! サラ!頼むから起きて!」
「……私は寝てるから何も聞こえませ~ん……むにゃ~むにゃ~……」
「いや、起きてるでしょ!! あー!どうすりゃいいんだよこれ!!!」
結局2人が離れてくれたのはそれからしばらく経ってからだった。
▽▽▽▽▽
その後のリズの話は驚くほど単純だった。
男たちから逃げるためにこの森に入りそこでダクロウ君を見て気絶したらしい。
ダクロウ君がなぜ森の入り口辺りまで行ってたのは謎だが、まぁ、無事に保護できたから良しとしよう。
リズと一緒にいたレティシアさんは流れ着いたのがエルフの島だったらしく問題なく家に帰れたそうだ。
念話魔法でお互いの無事が確認できるのは便利だと思った。
リズは帰ることが出来ないのでこちらでしばらく預かることになった。
取り敢えず、明日から日課を手伝ってもらう予定だ。
「ダクロウ君。家族水入らずで悪いけど枕お願いしていいかな?」
問題はリズの寝場所だった。
リズは頑なに俺と一緒がいいと言って俺のベッドを占領してしまった。
さすがにそれは不味いので俺は前に戻ってダクロウ君枕を使うことにした。
ダクロウ君はルリとフェン君に挟まれていたが、フェン君をバシッ!と叩いてどかした。
「フェン君……ごめん」
フェン君はルリの横に移動したがルリにも叩かれしょぼんとしていた。
フェン君……もしかして一番立場弱いのかな?
「ダメだぞフェン君。男ならもっと強くなきゃ!」
ビシッと指を差して言ってやる。
あれ?『お前に言われたくねえ!』って顔されたんだが??
いや、フェン君の表情なんて俺にわかる訳ないし気のせいだよハハハ。
「……えっと、ダクロウ君ありがとう。寝る前にちょっと用事済ませてくる」
俺はダクロウ君たちに背を向けるとリビデ君を探し始めた。
「ああ、やっと見つけた。 リビデ君。イシュタと話せるかな?」
―― …………アル?どうしたの??――
少し待つとイシュタから声が聞こえてきた。
「えっと、イシュタにお願いするのも悪いんだけどさ……」
――知ってる。あのエルフの子を襲おうとした魔族でしょ?――
なんとなく魔族なのは予想していた。
人族の身体魔法を使われたらリズに逃げられるわけないのだ。
「ホントは死神のお前に頼むのはダメなんだけどな」
自分の都合で神を使役するのはよくないのは知ってる。
でも、まぁ、お兄ちゃんと呼んでくれるリズを怖い目に合わせた奴らを許すほど俺はお人よしではない。
――ふふ。 大変だね、お・に・い・ちゃ・ん――
「うっ! イシュタまで勘弁してくれよ」
恥ずかしくてボリボリと頭を掻く。
――ふふ。 じゃあ、行ってくる――
「ああ、ありがとなイシュタ」
イシュタとの会話はそれで終わった。
俺はそのままダクロウ君の元に向かうため歩き出した。
この後すぐ、その男たちに本物の天罰が落ちたことは間違いないだろう。
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