32 エルフの子
「アルさん!?その人は!?」
俺を見たクレアは声を上げ近寄ってきた。
「……随分おさない顔をしています。それに、この特徴のある長い耳はエルフですね」
クレアはすうすうと気持ちよさそうに寝ているエルフの子をなでている。
「やはりこの子はエルフか。前にクレアから聞いた特徴でそうかなとは思ったけど」
俺は知らなかったが、クレアは王族という事もありエルフ族とドワーフ族の事を知っていた。
エルフ族は尖った長い耳が特徴の種族らしく、使う魔法は『念話魔法』といって、エルフ同士ならどんなに離れていようと頭の中で会話ができるとのこと。
ドワーフ族は小麦色の肌が特徴の種族で、使う魔法は『鉱物魔法』と言って鉄や鋼を魔法で出せる種族らしい。
なお、それ以外は我々と容姿も体系も同じと言っていた。
「ですが、この大陸にエルフが居ることはないはずです……私たちの愚かな行為で今は島で暮らしてるはずですから」
すみません、と悲しそうに呟く。
元々この大陸に住む4種族は戦争が始まるまで仲良く暮らしていたそうだ。
人族と魔族の戦争がはじまると、戦いを好まないエルフ族とドワーフ族は大陸を離れ小さな島で暮らしているとクレアはいっていた。
「この子はどこにいたのですか?」
「んー、ダクロウ君が拾ってきたから森の中に居たのは間違いないと思うよ」
ニルヴァースが言っていたことだが、この森に棲んでる魔獣や魔虫は森の外に出れないようにしたらしい。
ここの生物が自由に出入り出来たら俺たちのような存在などすぐ滅ぶからだ。
森からも出れない存在なのに何故こんなに知れ渡っているかというと、下級神である書物の神『ノートス』が書いた書物があるからだ。
ノートスは下級神でありながら唯一ニルヴァースから直接命令を受けた神である。
その命令は「すべての魔獣と魔虫を書き記しなさい」というものだ。
ノートスが書いた書物により三大脅威やその魔獣、魔虫の名前や形まですべてわかっている。
そして、ニルヴァースの森には近づいてはいけないとの注意書きも最後に記されている。
まぁ、それがニルヴァースの森には創造神がいると噂される原因でもあるのだが。
話が脱線してしまったがダクロウ君もその例にもれず森から出ることは出来ないのでこの子を拾ってくるのは森の中という事になる。
「アルバート様、クレア様。一先ずその子を寝かせませんか?」
「そうだね。じゃあ、俺のベッドに運んでおくよ」
俺のベッドは広いから妥当な判断だろう。
「「………………」」
あれ?何で黙ってるの??
「えっと、アルさんはどこで寝るんですか?」
「ん?自分のベッドに決まってるじゃん」
何言ってるのクレアは??
「なるほど。アルバート様は犯罪者というわけですね」
「?? ……あっ!もしかしてこの子って女の子なの!?」
「しらじらしいウソですね。まさかアルバート様がそのような性癖をお持ちだとは思いませんでしたよ」
サラはゴミを見るような目で俺を見ている。
「ち、違う!ローブの上だったからわからなかっただけ!俺にそんな趣味は無いから!!」
「…………ふふ。アルさん?」
怖いぐらいにニコニコしてるクレアは俺の顔面をガッと掴む。
「ク、クレア!やめて!!潰れるから!!マジで潰れちゃうから!!」
「ふふふふ。犯罪者には罰が必要ですよね?」
ミシミシっと頭蓋骨が軋む音が頭に響く。
「うぎゃあああああああ!!!」
俺は今日2度目の悲鳴を上げた。
▽▽▽▽▽
「ふぅー。今日もお疲れ様」
「お疲れ様でした」
バシャバシャと畑の井戸で顔を洗う俺たち。
今日の日課も無事に終わったし、昼食後は昨日できなかった瓦張りでもやろうかな。
「あの子はまだ寝ているのでしょうか?」
「かもね。でも、サラが付いてるから大丈夫でしょ」
「ええ。そうですね」
昨日ダクロウ君が拾ってきたエルフの子は朝になっても起きてきてこなかったので、サラに任せて俺とクレアは日課に精を出した。
「あっ!アルさん見てください!」
クレアが指差した方にはこちらに向かって歩いてくるサラとエルフの子が居た。
エルフの子はサラに手をつながれまわりをきょきょろと見渡している。
やがて俺たちに気づいたエルフの子はビクッ!と体を強張らせるとサラの後ろに隠れてしまった。
「隠れてしまいましたね」
「あいつ……また余計なことでも言ったのか?」
俺たちはサラの方に近づいていくと「アルバート様はそこから動かないでください」とサラに止められた。
「アルさん?」
「あー、俺はここにいるからクレア行って来てくれ」
よくよく考えれば葉っぱの腰巻とサンダルしか身に着けてない俺は変な人と思われても仕方ない。
それに、外で怖い目にあったから森に逃げて来たのかもしれないしな。
「わかりました。では、行ってきますね」
クレアはそう言ってサラの方に走っていった。
しばらく3人で話をしているとエルフの子がトコトコと俺の方にやってきた。
「……た、助けてくれてありがとうございます。わたし、『リズ』と言います」
リズと名乗った少女は俺にペコリとお辞儀をした。
読んでくれてありがとう<(_ _)>




