3 ルール決め
3話目です。
「ルール、ですか?」
王女様はきょとんと俺を見ている。
俺は黙って頷いた。
「まず、俺の事は『アル』と呼ぶ事。俺は様付けで呼ばれるほど偉くはない。そして、王女様とは呼ばず『クレア』と呼ばせてもらいたい」
王女様はおろおろと慌てている。
「ア、アルさん……では駄目でしょうか? そ、その男性を呼び捨てで呼んだことが無くてですね、その……」
「あー、アルさんでいいよ。んじゃ、こっちもクレアさんの方がいいかな」
そこまで動揺されるとこっちが悪いこと言ってるみたいな気分になる。
まぁ、さんでも十分だろ。
「……そ、それは大丈夫ですのでクレアとお呼びください。は、恥ずかしいですけど頑張って慣れますので」
「そう?じゃあ、クレア。改めてよろしくな」
「…………っ! は、はい、アルさん。不束者ですがよろしくお願いします」
やっぱりクレアさんの方がいいだろうか。
▽▽▽▽▽
あれから何度かクレアと呼び、呼び捨てに慣れてもらった頃にはすっかり夜になってしまった。
囲炉裏に薪を入れ魔法の炎で火をつけた。
燃える木がパチパチと音を立てている
ここは森の中、灯りなどなく、夜になれば月明りしかないので何時もは夜になるとすぐ寝るのだが、まだルール決めが残っているので俺もクレアも起きている。
「……取り敢えず、灯りはこの火しかない。クレアは放出魔法が使えないから火を付けられないだろうけど、必要になったら俺が付けてあげるから遠慮なく言ってくれ」
「わかりました。でも、不思議な感じですね。火が燃えているのに熱く無いなんて」
「それはこの家の中だからだ。外に出れば普通に熱いから気を付けろよ」
結界の中では気温の操作が可能だ。
例えば、この家の中はこれくらいの温度と俺が念じて魔力を放出すればその温度になる。
なので、その中で火を焚こうと何をしようと家の中の温度は一定に保たれる。
逆に、トイレの隣に建てた食糧庫は真冬並みの寒さに調整しているのである程度の保存がきく。
結界内なら温度の管理が出来るといったが、直径10kmすべてを変えるのは俺の魔力が足りないので、建物の中だけ変えている。
だから家の外に出ればその効果がなくなり火は熱いし、季節が冬になれば寒い。
今の季節は夏だから外に出ても寒くないが。
しかし、気温は操作できても気候は操作できないので、雨風はどうしようもない。
「はい。その時は宜しくお願いします」
「よし、じゃあ、ルール決めに戻ろうと思うんだが、その前に何か食べ物持ってくるな。お腹すいたろ?」
片手に火を付けた薪、もう片手に自作した大きめの木の皿を持って家の外に出た。
クレアも「私も行きます」と言って付いてくる。
俺の家は結界の中心に建っている。
東に井戸と畑、北東に果樹園、西にトイレと食糧庫がある。
畑と果樹園は明日の朝見せればいいと思い俺はトイレと食糧庫を案内する。
「ここがトイレ、その隣が食糧庫だ」
家の隣に建ってるトイレとその横にある食糧庫の場所を教える。
トイレの中は畳2枚くらいの広さがある。
その中で1mほど穴を掘り、拳大のスライムを3匹ほど入れただけのシンプルなものだ。
スライムは汚物、汚臭、汚水、食べかすなどを吸収してくれるのでこの世界では重宝されている。
尻拭きは一般的にトイレットペーパーを使用するがこの場所にそんなものは無いので葉っぱだ。
食糧庫は4畳ほどの建物。
中には収穫した食べ物を保管している。
中に入り、トマト、きゅうり、リンゴ、バナナを皿の上に数個乗せ、クレアと共に家に戻る。
俺の家は8畳ほどの建物だ。
家の中は中央に50cm四方の囲炉裏、東側にベット、西側にスコップ、鍬、ジョウロなどの畑で使用するもの、北側に鉄製のフライパン、鍋等の料理に使用する道具が置いてある。
因みにどの建物も出入口は南側にあるが扉はついていない。
建物を作るときに作ろうと思ったが開閉式のやり方が分からなかったから断念したのだ。
なので外から見たら丸見えなのだが、未だ誰もいなかったので問題ない。
クレアがトイレに行っているときは見なければいいだけだし。
まぁ、クレアは恥かしいだろうけどそれは我慢してもらうしかない。
囲炉裏の周りに座り、さっき持ってきた物を食べる。
「お城で食べていた物より美味しいです」といってクレアは喜んで食べてくれてる。
自分が作ったものを美味しいと言ってくれるのはやっぱり嬉しいものだ。
「……食べながらで悪いんだけどルールの話をするぞ。まず、名前はお互い決めたから解決としよう」
クレアはトマトを齧りながらうんうんと頷く。
「んで、明日からクレアにも畑仕事を手伝ってもらう。働かざる者食うべからずだ」
不安そうな顔をするクレア。
「……私、今まで畑仕事などやったことが無いのですが大丈夫でしょうか?」
「いきなり戦力になるとは思ってないからそこは安心してくれ」
といってもクレアは身体魔法があるからすぐ慣れるはずだ。
やることも難しくないしな。
「わかりました。私、頑張ります」
クレアがグッとこぶしを握るのを見て俺はうんうんと頷く。
「そして寝る場所だが、ベットが一つしかないので新しく作るまではクレアが使ってくれ」
ベットを指差す。
さすがに2人寝るには小さすぎるし、俺の理性が持たない。
「……アルさんはどちらで寝るのでしょうか?」
「俺は外でダクロウ君を枕にして寝るよ。ああ、明日クレアにもダクロウ君とリビデ君紹介するな」
「では、その2人の紹介は明日の楽しみにしておきますね」
正確には1匹と1体なんだけど……まぁ、いいか。
「取り敢えずこんなものだけど何か質問ある?」
「……いえ、大丈夫です」
「そか、じゃあ、俺は寝るからクレアも早めに寝なよ」
「はい。おやすみなさいアルさん。明日から宜しくお願いしますね」
「おう。おやすみ」
家の外に出て、ダクロウ君を探した。
クレアに見られないようにしていたのか少し離れた場所で丸まって寝てるダクロウ君を見つけた。
リビデ君は見当たらなかったので夜の見回りでもしてるのだろう。
俺はダクロウ君に体を預けてすやすやと眠りについた。
読んでくれてありがとうございます。