14 変わった大陸事情と塩
14話です。
昼食を食べ終えた俺とサラは、家が建つ予定の場所に立っていた。
地面にはサラが設計した家の間取りが描かれている。
「大きな家を作る予定なんだな。これ、いつ頃できるの?」
サラが設計した間取り図は、ぱっと見ただけでも俺が作った家の5倍以上だ。
「そうですね…後2日といったところでしょうか」
「2日!そんな早くできるの!?」
「はい。必要な木材はある程度揃えましたから、後は細かく加工して組み立てるだけです」
サラは山積みになってる木材を指差して何でもないように口にした。
「凄いな…あれだけの木材をこんな短時間で集めてくるなんて」
「クレア様程の身体魔法は使えませんけど、私もそれなりに使えますから」
間違いなく俺より強いねこの人。
「それよりアルバート様、お願いした仕事をしてください」
「お、おう!」
俺はサラから指示された場所に井戸と海水井戸を掘った。
井戸は3箇所掘らされた。
なんでも、トイレ用、飲み水兼料理用、水浴び用と分けるらしい。
ホントにメイドかこの人。
「お疲れ様でしたアルバート様。これからどうするつもりですか?」
「んー、クレアの様子見に行って、その後は仕切り作りかな。まぁ、仕切りはサラの家が完成すれば要らなくなるだろうから簡単に作るよ」
女性が2人になったから仕切りが早急に必要だろう。
イシュタがいるから手を出す気はないが、俺も男だ。
裸見ちゃったら、そりゃ…ねぇ……?
「クレア様の様子を見るのは構いませんが、仕切りは作る必要ありません。…そうですね、アルバート様はダクロウ君にお願いしてお肉を貰ってきてください」
「肉頼むのはいいけどなんで仕切り要らないの?」
例え2日でも仕切りないと不便なんじゃないかな。
「私のおかず…いえ、2日しか使わないのでしたら作るのがもったいないと思いました」
何か変なこと言いそうになったよねこの人? あからさまに胡麻化したよね??
「兎に角、仕切りは要りません。 合法的にクレア様の裸を見れるのにそんな物作られたら間違って壊してしまいそうです。 さぁ、アルバート様は仕切りなど作らずダクロウ君にお願いしてきてください」
話はこれで終わりですと言うようにサラは木材の選別を始めた。
サラに家作り任せて大丈夫なのか?
▽▽▽▽▽
家に戻るとクレアは囲炉裏に設置した鉄鍋をずっと見ていた。
鉄鍋には海水井戸から汲んだ海水が入っている。
クレアの仕事はこの海水を煮詰めて塩を取り出すことだ。
既に出来上がってる塩が木の皿に盛られている。
「あら?アルさんどうされました?」
「いや、サラの用事が終わったからクレアの様子を見に来たんだ」
そう言って塩を指に付けペロッと舐めた。
懐かしい塩の味がする。
「もぉー、アルさん、勝手に味見しちゃ駄目ですよ?」
メッと俺を叱るクレア。
「あはは、ごめんごめん。クレアの邪魔しちゃ悪いからそろそろ行くよ」
「え?…もう行ってしまうのですか?」
しゅんと残念そうな顔をするクレア。
「あっ……いや、もう少しだけここに居るよ。…いいかな?」
ぱあっと顔を綻ばせるクレアを見て、俺は腰を下ろしクレアと楽しいひと時を過ごした。
▽▽▽▽▽
「……信じられません」
結局、あれからクレアと話をしていたらいつの間にか夕方になっていた。
俺はダクロウ君に頼むのを忘れて、目下サラに呆れられている。
「先にダクロウ君に頼むことも出来たでしょうに、何故そうしなかったのですか?」
「うっ…す、すまん」
俺は何も言えず小さくなってサラに謝る。
「まさか、クレア様を狙ってるんじゃないでしょうね?」
ギロリと俺を睨むサラ。
目が怖いですよサラさん……
「ね、狙うなんてそんなことする訳ないだろ。俺にはもう奥さんいるし」
「……アルバート様、もしかしてご存じないのですか? この大陸は一夫多妻制に変わりましたよ?」
「えっ!いつ変わったの!?」
俺がこの森に入る前は一夫一妻制だったはずだ。
「1年くらい前です。 すべての神殿に創造神ニルヴァース様から、この大陸を一夫多妻制にすると神託があったのです。 創造神ニルヴァース様からの神託なんて1度もなかったので大陸中大騒ぎだったんですよ」
1年前?そういえば天上に帰るとき、ニルヴァースが変えてくるって言ってたけどこれのことか!?
あいつマジで何やってんだよ!創造神が職権乱用したらダメだろ!
「アルバート様、どうしました?まるで俺はその原因を知ってるみたいな顔してますけど」
「し、ししし知らないよ?俺は森に居たんだもん知る訳ないじゃないかー」
「露骨に狼狽えていますけど、深くは追及しないでおきましょう。 つまり、今の大陸は奥様が1人ということはもう無くなっているのです」
同性結婚も認めてくれればよかったのに、とサラがボソッと言ったけど気にしない。
「ですが!前も言いましたけど私の目の黒いうちはクレア様に指一本触れさせませんからね! クレア様のシミ一つない綺麗でスベスベの肌を触っていいのは私だけです! クレア様のあのピンク色の……」
「サラ……お願いですからもうやめて……」
ぷしゅーっと顔から湯気が出るほど羞恥で真っ赤にしてるクレアが蚊の鳴くような声でサラを止める。
「クレア様!せめてピンク色の何かでも教えてあげた方がいいでは!?」
「それがダメだって言っているのよ!!!!」
もう嫌、とクレアは顔を両手で隠して蹲ってしまった。
▽▽▽▽▽
「あら……この塩というものつけると更に味がよくなりますね」
夕飯に出たトマトを塩に付けて食べたクレアがそう呟く。
「クレア様、きゅうりに付けても美味しいですよ」
サラが塩を付けたきゅうりをクレアに差し出す。
美味しそうにポリポリと食べるクレアを見て自然と頬が緩む。
「ほらほら、アルさんも食べてみてくださいよ」
嬉しそうにトマトを渡してくるクレア。
俺は塩に付けてガブリと齧った。
塩のしょっぱさとトマトの甘みと酸味が口の中いっぱいに広がる。
「……うん。美味い!」
俺の農場に塩が誕生した。
読んでくれてありがとうございますm(__)m




