華姫
久しぶりの投稿です!
思いついたネタを少し物語風にしたものですので、展開とかが色々おかしくなってます。
ある国に、華姫というお姫様がいた。彼女は華のように美しく、彼女の周りにはいつも沢山の花たちが咲き誇っていることからこの名前が付いた。
彼女の髪は綺麗な薄紫色で、その髪にはいつもこの世のものではないような白い華の髪飾りが付いていた。
華姫にどこでそれを手に入れたか、それがどんなものかを聞いてみても、華姫は何も答えてはくれなかった。
ある日、華姫がいつものように庭園の花を見ながら散歩していると、その中に一つ。華姫の髪飾りにとても似ている、美しい黄色の花が咲いていた。
華姫が不思議に思い、その花をじっと見つめていると、どこから来たのか淡い水色髪をした少年がひょこっと顔を出して、「綺麗ですよね」といった。
「…貴方、だあれ?」
「?あ、すいません!華姫様!お…私は旦那様に雇ってもらっている庭師の#####です!」
慌てた様子で、少年は名前を教えてくれたが、華姫には何故か名前の所だけが不快なノイズ音に掻き消されて聞こえなかった。
「すみません。この花を見てくれたのがつい嬉しくて…」
「…この花は、貴方が育てたの?」
「はい。この花は福寿草#いって、と##縁起が良いん#すよ!」
少年が話すたびに頭の中にノイズ音が走る。まるで頭の中をかき回すように鳴る音に、華姫はその場にうずくまった。
「!は、華#様!ど、##したんです#!」
少年が慌てふためく間にも、華姫は痛い痛いと頭を押さえながら泣いていた。何かが剥がれていくような、そんな感覚に襲われて、華姫は意識を失った。
真っ暗で何もない空間に華姫は立っていた。そこに光は一切なく、自分の手足も見えない程だった。
目が少しずつ慣れてきて、手足が見えるようになってくると、奥のほうに誰かがいるのが分かった。
「………………」
「貴方はだあれ?」
「……俺はレグナ。君の記憶の中にいるにいる存在だよ」
自分の名前をいうレグナは、どこか悲しそうで、どこか遠い過去を見ているようだった。
「君はどうして、またここに来たんだい?」
「…また?私はここに来るのは、初めてなのだけれど。」
すると、レグナはまた悲しそうに、「そうか。」と言った。
「それなら君はここにいてはいけない。ここにいれば、またあの時みたいに…」
「どうしたの?」
「…とにかく、早く戻るんだ!そうしないと…また…!」
焦った様子のレグナに華姫が戸惑っていると、急に視界を強い光が襲う。
「!?」
「君は戻ったら何もかも忘れてしまえ。こんな…」
誰かが華姫の手を掴む感覚がした。その手はとてもあたたかくて、とても冷たかった。
「辛い、記憶なんて」
最後に見えたのは、淡い水色の髪をした、泣いている少年の姿だった。
「………ネ!………ア…ネ!」
誰かが華姫の名前を呼んでいる。
「アネ…ネ!」
「……ん…」
華姫が目を開けると、そこには華姫の両親、国王と、その王妃が心配そうに私を覗き込んでいた。
「アネモネ!お、起きたのか!」
「…父、様?母、様?」
「誰か!お医者様をお呼びして!」
両親が感極まって泣いていると、華姫の視界の片隅に、庭師の少年が映る。
「は、華姫様っ…!」
華姫は、その姿が記憶の中の少年に見えた。
「…レ、グナ?」
「……!華姫様…?何故……」
「「………」」
華姫の両親は何が起きているのかが全くわからなかった。ただ、その間に入ってはいけないと感じ、そっと部屋を出て行った。
「…どうしてレグナがここにいるの?」
「……っ。私はレグナというものではありません。見間違いではないでしょうか。」
そう言う少年の顔は嬉しいような、悲しいような、なんとも言えない表情をしていた。
「華姫様……っ」
華姫には、少年がどうして悲しそうにしているのかが分からなかった。
「そう……ごめんなさい。ちょっと混乱していたみたい」
「……はい。…それでは私はこれで。あまり長居して華姫様に噂が立ってはいけないので」
「ええ、そうね。ありがとう」
私がお礼を言うと、少年は一礼して部屋を出て行った。
その素っ気ない仕草にズキッと華姫の胸が痛む。
「……な、んで?なんで、こんなに悲しいの?」
初めて会ったようには思えない、少年とレグナ。2人の違和感がどうしても払えなくて、もやもやする。
「アネモネ?大丈夫?」
華姫が悩んでいると、華姫の両親が部屋に入ってくる。
「はい。心配をかけさせてしまい、申し訳ありません」
「いいのよ。私たちのかわいい娘だもの。心配だってするわ」
「ああ、それにそろそろ婚約だってあるんだ。可愛い娘の将来がかかっているんだ。頑張らなくてはな」
両親の言葉が重く華姫の心にのしかかる。
(父様。貴方が見ているのは、私ではなくてこの国でしょう?母様。貴女が心配しているのは、私ではなくて父様の機嫌が悪くなることでしょう?)
(みんなみんな自分の事だけ考えていて、他のことなんて気にもかけない。ほんと馬鹿みたい)
華姫には、両親の考えが手に取るようにわかり、そのことに退屈していた。
「貴方、そんなことより、アネモネに聞きたいことがあったんじゃないの?」
「ああ、そうだったな。今いいか?」
「…はい、なんでしょう父様」
華姫がベッドから体を起こして答える。
「先程アネモネが言っていた、レグナと言うのは誰だ?」
「…………レグナ…ですか?」
「ああ、そうだ。」
レグナの事。と言われても、華姫は何と答えれば良いか分からなかった。何しろ、レグナに会ったのはさっきが初めてのことで、それまでレグナの存在を知らなかったのだ。華姫が答えに迷うのも無理はない。
「アネモネ。もしレグナというものがお前にとって大切な存在だとしたら、私としても、見過ごすわけにはいかないのだ」
「………レグナは……」
何を言えば正解なのか、華姫には分からなかった。分からなかったが、それでも胸に残るものが答えを教えてくれた。
「レグナは、私の大切な人です」
気づけば、そう、口から出ていた。レグナは華姫にとって大切な人なのだと。
「そうか…ありがとう。アネモネ。それでは私達はここで失礼するよ。あまり長くいても、アネモネが休めないだろうからね」
「ええ、そうね。アネモネ。しっかり休むのよ?」
「…ええ。父様、母様」
ぱたんと音を立てて扉が閉まると、華姫はベッドから降りて近くの窓の外を見つめた。そこには、華姫が倒れる前に見ていた黄色い花が一輪咲いていた。
「あの子に、もう一度会わなきゃ…」
気づけば華姫の体は庭園の方に走り出していた。あの少年に会って、もう一度話をしなければいけないと、何かが訴えている。
華姫が庭園につき、また黄色い花を見つめていると、後ろから少年の声がする。
「華姫様。またここに来たのですか?いけませんよ。倒れてしまったのですから」
「…………ねえ、貴方はこの花の花言葉を知っている?」
「…ええ。知っていますよ。福寿草の花言葉は、【幸せを招く】【永久の幸福】あとは…」
福寿草の花言葉、それは…
「【悲しき思い出】でしょう?」
「…はい。よく知っていますね」
福寿草には、幸せそうな言葉の裏に悲しい思い出がある。そう、昔に覚えた。
「貴方は、レグナはこの花をどう思うのかしら」
「…どうでしょうね。私はレグナという名前ではありません。もう、その名は捨てましたから」
華姫は、少年の顔をじっと見つめて言った。
「ねえ、私と貴方は昔に会ったことがあるの?」
「どうしてですか?」
どうして、と言われれば何も華姫は思いつかなかった。ただ、今も華姫のなかで、何かがレグナに会え。という。
「レグナにね、倒れたとき初めて会ったの。でも、それが初めてではない気がして…何故かしら。貴方に聞けば分かる気がしたの…」
「レグナは、いませんよ。もう」
さっき少年はもうその名は捨てたと言った。華姫はこの少年がレグナなのだと悟った。
「………そう、レグナに会った時にね、辛い記憶なんて忘れてしまえって言われたの。レグナに会った事は、無かったのにね」
華姫が話している間、少年は何も言わずにただ聞いているだけだった。
「レグナにね、最後に手を握られたの。その手は、あったかくて、冷たかった。手を握ったレグナは悲しそうに、泣いてた。レグナは私に記憶を忘れろって言ったのに、一番、レグナが辛そうだった」
「多分その記憶は、レグナとの記憶なんだろうな…大切なはずなのに、思い出せないの。レグナのことを、記憶を思い出そうとすると、胸が痛くて、悲しくなる」
気づけば華姫の目には涙が浮かんでいた。少年はスッと華姫の涙を拭うと、懐かしむように話し始めた。
「昔、俺には、女の子の友達がいたんだ。いつも泣き虫で、気が弱くて、放っておけない奴だった」
【私】から【俺】に口調が変わり、少しだけホッとする。華姫にはそれが何かまではわからなかったが。
「いつも俺の後ろをついて来て、事あるごとに首を突っ込んで、変なとこで強情で……いつのまにか、大切な存在になってたんだ」
楽しい思い出を振り返っているようで、少年の顔がふっと柔らかく微笑み、そしてまた曇ってしまう。
「そんな時、あいつが急にいなくなった。俺はもちろん探したよ。その時は真冬でもうすぐ日が沈んでしまう時間だった。もし、迷子になってたらいくらなんでも死んでしまう。俺は、親が止めるのなんか気にせずに村を走り回って、そして、気づいたら夜が明けてた」
それほど少年は女の子の事を思っていたのだろう。華姫は少しそれを羨ましいと思った。
「家に帰って、親に相談しようとしたら、何でかあいつの親がきて、それで……」
「………」
少年は言葉を詰まらせ、そして、華姫に打ち明けた。
「………―あいつは、もう奴隷として売ったって。そう、言われた」
「っ!?」
奴隷。それは、幼き日の、―華姫の姿だった―
「俺は、そこからはあんまり覚えていない。気付いたら駆け出していて、それで、ここの庭師のじいさんに拾われて、それからはここで暮らしてる」
「…………そう、なの」
華姫と少年の横を少し冷たい風が吹き抜けていく。もうすぐ暖かくなるというのに、華姫には真冬の風のように思えた。
「……私は、父様と母様の、娘じゃない。私は、昔捨てられて、奴隷になって、父様と母様に買われた……」
「うん…」
「普通に生きて、普通の生活を送りたかった!」
華姫の悲痛な叫びが庭園にこだまする。少年は黙ってその言葉を受け止めていた。
「大切な記憶は全部忘れて、大切な人も奪われて!もう、何を信じればいいかもわかんなくて…」
華姫の目からポロポロと大粒の涙が溢れ出る。地に落ちた涙から小さな淡い水色の花が咲く。
「アネモネ」
「―っ!」
泣きじゃくる華姫を少年がそっと抱きしめる。まるで壊れ物に触れるように、大切な何かを与えようとする様に。
「アネモネ、大丈夫。大丈夫だから」
「っうう…」
少年が華姫の頭を撫でると、何かが呼応するように、華姫の髪飾りが光を放ち、消えた。
「―っ……」
「アネモネ?寝ちゃったのかな…」
光が消えるとともに華姫が意識を失い、少年の体にもたれかかる。
「アネモネ、アネモネ!」
誰かが華姫の名を呼んでいる。振り向くとそこには笑顔で手を振る少年の姿。
「レグナ?」
「アネモネ!早くこっちにおいで!」
少年の顔はぼやけてよく見えない。それでも、華姫は少年のもとに駆け寄った。
「レグナ!」
「アネモネ、会いたかった!」
華姫と少年はどちらからともなく抱きしめ合う。
「もう、忘れないよ。レグナ」
「うん。アネモネ、行こう?」
少年が指を指した先には小高い山の上にいる両親の姿だった。
「うん…!」
華姫は幸せそうな顔で少年と共に両親のもとへ走る。
―それが、たとえ偽りの幸せだと、分かっていたとしても―
ギイイと、扉が不快な音を立てて開く。
「アネモネ、おはよう。遅くなってごめんね?」
「……………………」
華姫はなにも答えない。いや、答えることができないと言った方が正しいのだろう。
「今日、花壇に君と同じ名前の花が咲いていたんだ。白い、アネモネの花」
「………………」
「アネモネは、この花の花言葉を知っている?」
「………」
「赤いアネモネの花は【君を愛す】。白いアネモネの花は【真実】、【期待】、【希望】。紫のアネモネの花は【貴方を信じて待つ】、だって」
「…………」
「他にもね、色々調べてみたんだ。勿忘草の花言葉は、【私を忘れないで】【真実の愛】。クローバーの花言葉は、【私を思って】、【幸運】、【約束】、【復讐】。どれも、いい言葉だよね」
「………………………」
彼は、蔓に絡められている華姫の頬にそっと手を伸ばし、口付けをする。
「………また。また、止められなかった。ごめんね、アネモネ。ごめんね―――。もう、一緒に居なくなろう」
彼はそう言うと、自らの体と華姫に火を放つ。
「ああ、あったかい。ねぇ、―――。今度は、間違わずに、一緒にいられるかな?」
程なくして華姫と彼の姿は消えた。燃えた後に、紫のアネモネと、勿忘草を残して。
読んでくださり、ありがとうございました!
このシリーズは、かなり投稿頻度が遅いので、あまり次回作は期待しないでいただけるとありがたいです。