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降臨的冥王(激動)

 

「……な、なんなの、これ」


 最後の魔力薬を飲み干し、いよいよ後のなくなったフィリアだったが、更に状況は悪い方へと動く。


 少し離れたところでは、金竜が依然としてシズネとオトネに敵意を剥き出しにしており、目の前の銀竜も勿論健在だ。

 そんな中、フィリア達の頭上。その上空に突如として無数の魔法陣が出現していた。


 こと魔法に関しての知識に明るいフィリアは、その魔法陣を見て即座に思い至る。


(あれ全部……召喚陣? そんなことって)


 そして、空を埋め尽くす程の魔法陣が輝きを放ったかと思えば天使が姿を現す。

 魔法陣の数だけの、天使達が空に召喚された。


「フィリアさん……これって」


「分かってるから! ちょっと黙ってて!」


 銀竜の相手だけで精一杯であったフィリアとエリスの脳裏によぎるのは『撤退』の二文字だ。

 しかしそれを選択するということは、この場に生き残っている数多くの冒険者達を見殺しにするということになる。


(どうする、どうするどうする! 考えろ! 考えろ!)


 目の前にはとても倒すことなど出来そうにない銀竜。

 そして上空には無数の天使達。


 さらにその上空に目を向ければ、今もそこに滞空し続ける黒い竜。

 ここまで、全く戦闘に介入してこなかったが、少し意識をその黒竜に向けると伝わってくる圧力(プレッシャー)

 今までに感じたことのない感覚。

 フィリアは確信する。あの黒竜は全く別次元の存在なのだと。


(あんなの、ロワ君でも……)


 考えれば考える程、自分たちが今置かれている状況に絶望してしまいそうになる。

 魔力薬も底を尽き、自分たち以外にまだ戦意を保てている冒険者も皆無。

 そんな中で、現存する魔力だけでこの場を乗り切る方法。


 "賢者"という類い稀な適性を持つフィリアが、その頭脳を総回転させて考える――


 ――そんな時だった。


「オトネっ!?」


 フィリアの耳に、シズネの悲痛な叫びが飛び込んでくる。

 顔を向けた先には、金竜の咆哮(ブレス)をまともに浴びて吹き飛ばされるオトネの姿があった。

 強く握り締められていた筈の二人の手は離れ、遂には離ればなれとなってしまっている。


(っ! やっぱりあのふたりの適能は自身の魔力と体力を喰うんだっ。そして、手を繋いでいないと発揮されない条件つきの適能――いや、そんなことよりっ!)


 状況は動く。


 金竜相手に優勢であった筈の二人だったが、強すぎる適能は、それだけ持続させることが困難であり、次第に効力は低下していた。

 そんな時に突如出現した天使達に気を取られ、金竜の咆哮を浴びてしまい、適能の条件を満たせなくなった。


 そう思い至るフィリアだが、今はふたりの命の方が大切だと。すぐに治癒魔法を行使すべく魔力を集中させるが――


 ――果たして今、治癒魔法を行使できる余裕があるのだろうか?


 歯噛みする思いで、フィリアは銀竜に視線を向ける。

 治癒魔法を行使する隙に、銀竜や天使達に狙われれば、それを防ぐ術を持たないのだから。


 その予感は、最悪の形で的中していた。


(……そ、そんな)


 視線を向けて、その視界に入ったのはまずエリスだった。

 しかしエリスだけではなく、その背後には天使の姿もあった。そして天使は既に、その手に持つ剣をエリスの背に向けて振り下ろそうとしている。


「――エリスちゃんっ!!」


 反射的に体が動いていた。


 足を動かし、無我夢中に体を投げ出した。


 すると、天使の剣がエリスに届くよりも一瞬早く、フィリアはエリスを抱き抱えて地面に転がった。


「きゃっ!」

「くっ!」


 天使の剣が空を斬る。

 何とか助かった。そう思う暇もなく、フィリアは即座に起き上がろうとする。

 すぐ背後には天使がいるのだから当然だろう。


 しかし、違和感に気付く。


「え、あ、あれ?」


「フィ、フィリアさん……」


 ジワリと、地面に広がる赤い液体。

 徐々に感じる熱と痛み、そして悪寒。腹には異物感。


「……は、はは。ぐっううっ」


 更にもうひとつ。

 新たに異物感が加わった。


「フィリアさん……」


「ごめん。エリスちゃん。ごめん。私達、ここまでみたい……」


 折り重なって地面に転がるエリスとフィリアに、2体の天使が剣を突き立てた。


「ごめんね。エリスちゃん……」


「い……え。わたし、最後にもう一度、冒険できて、よか……たです」


「…………………………」


「私の……方こそ、ごめん……さい。結局、なにも……役に立てなくて……」


 遠退く意識の中で涙を浮かべ、自分の胸に体を預けるようにして動かなくなったフィリアに、エリスは必死に語りかける。


「…………………………」


 そんなエリスの言葉に、フィリアが返事をすることは出来ない。






 大規模転位魔方陣。

 紫魔方陣と呼ばれるそれで転位した先に存在する異空間主。

 数多くの冒険者が協力し、挑戦する。

 そこから帰還することの出来る冒険者が、いったいどれだけ存在するのかは、当事者達にしか分からない。


 少なくとも今――



 ――勇者パーティーのひとり。"賢者"フィリア・レステルは絶命した。


「…………………………」







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