降臨的冥王(絆)
~
「「……………」」
互いの魔力を感じ合い、シズネとオトネの瞳が神秘的な輝きを放つ。
唯一無二である筈の特別な適性武器。にも関わらず、シズネとオトネがそれぞれ手にしている武具の名は"双竜の刀"。
同じ名の適性武器を所持する二人が手を繋ぎ、互いの魔力を感じることで発動した適能は。
『絆結び』
互いの絶大な信頼と肉体的、そして魔力を繋げることで初めて効果を発揮する適能である。
「いくよオトネ……」
「うん……お姉ちゃん」
互いの手を強く握り締めながら、シズネとオトネは歩き出す。
左手に武具を持つシズネ。
右手に武具を持つオトネ。
ただ、目の前の金竜だけを見据えて数歩進む。
そして――
次に一歩を踏み出したかと思えば、二人の姿は金竜の向こう側へと移動した。
「――――――!!」
と同時に、その場に響き渡るのは金竜の悲鳴にも似た咆哮であった。
―ズルリと金竜の左前足がズレ落ち
―ドサリと左翼が地に落ちる。
「――――――!!!」
怒り狂った咆哮を木霊させながら、金竜が二人に咆哮を放つ。
魔力を極限まで凝縮させた、光線にも似た咆哮だった。
音速を超える咆哮は、狙い澄ました場所、二人へと直進する。
「「――はぁっ!」」
しかし、同じかけ声と共に、全く同じタイミング、角度、速度で振り抜かれた二人の刀は、その咆哮を中心から別つ。
誰もいない地面に激突した咆哮がまばゆい閃光を放つ中、二人は金竜の頭上へと素早く跳躍し、剣技を放った。
「「『疾風怒濤・絆』」」
逆手に刀を持ち変えた二人が、体を激しく回転させ金竜へと墜ちた。
まさに怒濤の斬撃に晒された金竜の全身は切り刻まれ、血渋きを上げている。
「はぁっ、はぁっ……」
「うぅ……」
先程よりも大きな悲鳴を上げている金竜。確実にダメージを与えていることは間違いなく、翼と腕の一本を奪ったことで二人が優位に立っていることは明白だった。
しかし二人の呼吸は荒く、魔力も激しく消耗させていた。
更には、二人の力強く握られた手からはポタポタと、血が滴り落ちていた。
「―――――!!」
再び木霊する金竜の咆哮。
重たくなった体を引きずるようにしながらも、金竜は未だに健在であり、恐ろしい程の敵意を二人に向けていた。
「タフだなぁ……」
「まだいけるよね? オトネ」
――勿論。
というオトネの言葉を聞くまでもなく、二人揃って再び金竜へと駆けていく。
金竜の咆哮と激しい魔法を避けながら、二人は双竜の刀を振るう。
~
(凄い……あんな冒険者が、こんな所にいたなんて)
エリスと共に銀竜を相手になんとか立ち回るフィリアは、シズネとオトネの戦闘を見て、そう思う。
銀竜の咆哮と魔法を、強化を施した守護魔法で防ぎ、自身とエリスの能力値を強化しながら、時には回避する。
「『守護神の盾』!」
(くっ! あまり運動は得意じゃないんだよね! 私)
銀竜の咆哮を回避するか、防御するかの二択。
ならば、並の冒険者よりも比較的少ない体力を消耗させるよりも、並の冒険者より圧倒的に多い魔力を消費することを選択する。
「くっ! エリスちゃん! こっち!」
しかし魔力とて有限。
隙を見ては魔法の発動を止め、回避を選択する。
"賢者"である自分が、もし魔力を失ってしまえばどうなるか? そんなこと、考えるまでもない。と。
(くっ! あっちの金竜も、あれだけの攻撃を受けていながら、まだあれほどの敵意を向けるなんて……)
まともな攻撃手段を持たないフィリアは、目の前の銀竜がシズネとオトネに向かわないように注意を引き、ただ防戦に徹することしか出来ない。
ただ嬉しい誤算は、シズネとオトネがフィリアの想像を軽く凌駕する実力を持っていたということ。
もし、二人への補助までも必要になっていたら、フィリアはここまで耐えることは出来ていないだろう。
しかし、
(やはりこの純竜種、20階層の階層主と同じく……普通の純竜種ではないか)
銀竜の激しい攻撃を回避し、防御しながらフィリアは焦る。
シズネとオトネ。二人が金竜を倒せなければ、この場を持たせることも難しくなってしまう。
そして更に、フィリアが心配していることがひとつ。
「エリスちゃん、魔力薬を!」
「――ッ! フィリアさん! これが最後の魔力薬です!」
上位魔法の連続使用。節約していたつもりでも激しく消費されていく魔力。
当然、それに伴って魔力薬も消費され続け、遂に底が尽きたのだった。
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