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降臨的冥王(凶望恋慕)

 

 ~~~


 多くの冒険者が見守る中で、未だアゼリアは異空間主との戦闘を続けている。


 ミルシェや冒険者パーティー"流星"、その他少数の者を除くほとんどの冒険者は、目の前で繰り広げられている戦闘に驚愕し、そして自信を失ってしまった。


 複数の異空間主を相手取り、たった一人で互角以上の戦闘をこなすアゼリアに、『格の違い』という物を感じ取ってしまっていた。


「どうかしたのか? ティア?」


 もし、アゼリアに不足の事態が発生したならば、"流星"の皆を引き連れてアソコに飛び込んで行こう。そう思っていたラズだったが、"流星"の大切なメンバーの一人であるティアの顔色が変わっていることに気が付いた。


「……いる、かも」


 上層組の冒険者では最年少。

 水色の髪と青い瞳が印象的な美少女だが、ある日を境に、まるで別人のように物静かな性格へと変わってしまっていた。


「っ!? い、いるって何がだ?」


 珍しいティアの反応に、ラズは戸惑う。


「ちょ、ちょっとラズ、落ち着きなさいよ」


 ラズを制する他のメンバーも、同様に戸惑いを隠せない。


「……………」


 そんな様子を、ミルシェはただ黙って見守っている。

 精霊の集団魔法が行使されようものなら、ミルシェは即座に対応し、詠唱魔法でソレを相殺せねばならないからだ。


 もしミルシェが相殺に失敗すれば、冒険者達にどれ程の被害が出るのかは計り知れない。

 こうしてただ、黙って立っているだけのミルシェだが、ソレだけで彼女には少なからずの疲労が蓄積されていく。





 ~





(なるほど、だいたい分かりました)


 天使と精霊、複数の異空間主との激しい戦闘をこなすアゼリア。

 天使の斬撃を素早く回避し、降り注ぐ精霊の魔法は手に持つ大鎌で弾き返す。

 だが、アゼリアの体力と魔力も確実に減少しつつあった。


(つまり、この異空間での超希少戦利品(プレミアムドロップ)は……)


 動きを止め、その場で立ち止まるアゼリア。


(本当に素晴らしい場所です、ここは。……ですが、もう飽きました)


 アゼリアの体から極大の魔力が溢れ出し、大鎌へと向かう。


「足りないんですよ」


 手に持つ大鎌の魔力を解き放ちながら、片足を軸にして勢いよく体を回転させる。

 その回転と共に放たれた極大の魔力が、黒い斬撃となり、その周囲一帯を蹂躙した。


 黒く、巨大な斬撃は、絶対的な力を持って、天使達を絶命へと追いやった。


「……はぁっ、はぁっ、はぁ。……ふふ、ふふふ。あはははは!」


 自身の持つ、全てに等しい魔力を吐き出したアゼリアは、その場に座り込み、美しい顔をは苦悶に歪む。

 だが、すぐにその顔は妖艶さを取り戻し、荒い息は、笑いへと変わってしまった。


「さぁっ! 私の望みは、更なる敵です! こんなモノではなく、大量で、強大で、強力な敵との殺し合いです!」


 アゼリアの叫びが、夜空に響く。


 まるで、その叫びに応えるかのように、夜空に劇的な変化が訪れた。





 ~






「アゼリア……何を言ってるの? よく聞こえない」


「お、おい。アレ……」


 冒険者達が空を見上げ、絶望的な声を漏らす。


 空に起こった変化は、アゼリアを除く全ての冒険者を絶望の淵へと追いやるには十分過ぎる程の物だった。


「これ全部が……天使……」


 空を覆い尽くす程の魔法陣から、次々に姿を現していく異空間主(天使)

 その数は、明らかに冒険者の数よりも多い。


 異空間主とは、冒険者達が互いに協力し、連携しながら討伐するもの。


 その異空間主が今、冒険者を上回る数となり、冒険者達の頭上に出現したのだった。


「戦闘準備だああぁぁっ!! 」


 ラズが武具を抜き、この場所にいる全ての冒険者に聞こえるように叫ぶ。


 自分たちが冒険者であり、ここが異空間であり、目の前に出現した存在が異空間主である以上、殺し合うしかない。

 少なくとも、足下の大規模転移魔法陣が再び耀きを放つまでは、戦うしかない。


 ラズの叫びは、その事実を全ての冒険者に思い出させた。


「くそっ! くそっ! 聞いてねぇ! こんなの聞いてねぇ!」

「おかしいだろ! なんだよコレ! なんなんだよ!」

「どうして……どうしてこんなことに……」


(アゼリア……あなたなの? あなたが何かしたの?)


 震えながらも、各々の武具を構える冒険者達と、尚も変わらずに座り込むアゼリアを黙って睨み付けるミルシェ。


 そんな混乱に包まれる冒険者達への攻撃を開始すべく、上空の天使達が動き出す。


「魔法陣が光るまで生き残れ! それだけでいい! 生きてさえいれば、帰れるんだ!!!!」


「っ! そうだ! 勝たなくてもいいんだ、勝たなくても……生き残りさえすれば」

「けど、こんなの、こんなの無理だろぉ!」


「ひ、ひぃいいぃい! ……うぐっ」

「がっ……」


 次々に、冒険者達が天使に殺されていく。


 協力も、連携も、何もない。

 ただの一方的な狩り。

 唯一の優位性であった"数"ですら、その優位性を失ってしまった。

 結果、この地獄のような状況だった。


(…………………………)


 "魔女のミルシェ"。

 彼女ですら、今のこの状況においては、狩られる側でしかない。

 混乱する状況、全冒険者において最大火力であるこのミルシェを、護りながら戦ってくれる者がいたならば、冒険者側にも勝機は少なからず存在したが、ソレに気付く者はいない。


(…………………………)


 複数の天使に取り囲まれて尚、ミルシェは冷静であり続けた。


(…………………………)


 前後、左右、上空。どこにも逃げ場はない。


 天使達の手に持つ金色の武具が自分に向けられ、その距離が瞬く間に詰められていく中で、ミルシェはただ……冷静であり続けた。


(…………………………)


 自分の豊かな胸に突き立てられた剣と、背中を抉る槍。肩から振り下ろされた斧の感触と、激痛の中でも冷静で、冷静であったが為に――


 ――長い、長い、詠唱を完了させたのだ。


「……『炎天下』」


 ミルシェの魔力が、太陽のような熱量に変わる。

 敵と認識した者のみを焼き尽くす、超、超高火力。


 ミルシェは、自身の魔力もろとも、近くの天使全てを焼き尽くし、絶命させた。


「……ロワ」


 ――魔力全損。


 全ての魔力を焼き尽くしたミルシェは、生命を終える間際、自分がこの異空間にやって来た理由を思い出していた。








 ――そんな時。


 ()()()()()に、異常とも言える規模の魔力が行き渡り、遠い場所にいる筈の者の"適能"が発動した。



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