降臨的冥王(ロワ・クローネ)
ありとあらゆる情報が、俺の中に流れ込んだ。
剣技や魔法、適能。そして、適性。
遠い昔から知っているかのような深い知識。適性武具を初めて手にした冒険者に必ず起こる現象だ。
"王者の長剣"を奪われた時に失った物から、新しい物まで。今、俺は再び――
――冒険者になった。
「お、おい。アンタのその左手の数字……」
「――ロワ君っ!!」
すぐソコにいる冒険者の声を遮って、遠くから叫ぶユティの声が聞こえてきた。
雰囲気からして、かなり慌てているようだ。とユティの方へと振り返る。
……なるほど。
ユティを取り囲んでいた5体の天使が、真っ直ぐに全速力で俺の方へと迫っていた。
コイツら、冒険者の魔力を感知する能力でも持っているのか?
とにかく、コイツらなりに最も危険な相手を優先的に狙っているらしい。
奥の天使がコイツらにそう命令している可能性もあるが……。
「お、おい! アンタ! 異空間主が来てるぞ! おい! 逃げねぇのかよ!?」
となると、現状ではユティよりも俺の方が危険と判断したということだろうか?
……ま、何でもいいか。
今は、この異空間で出来るだけ冒険者側の被害を抑えることに専念しよう。
静かに、俺は迫り来る天使達を睨み付け、口を開き、言う。
「『下がれ』」
『『――――――――――――――ッ!!』』
その声は確かに天使達に届いたらしく、まるでその声に襲われる様に、天使達はそれぞれの方向へ激しい音を残しながら、吹き飛んだ。
「な……ななな、何が……」
冒険者が頭を押さえ蹲りながら、現状に困惑しているが、いちいち説明するのも面倒なので置いておく。
俺の適能の一つ、"王命"だ。
299階層級以下の存在は、この"王命"に逆らうことは出来ない。
とんだ壊れ性能だが、奥にいる最後の天使には効果は得られそうにない。
つまり、あの天使だけは300階層級以上の存在。ということだ。
とは言ってもこの"王命"、本来ならここまでの威力は発揮しないのだが……。
今の俺には頼もしい相棒が存在する。
彼女のおかげで、俺はここまでの壊れ性能になってしまっているらしい。
「ロワ君……」
「あぁユティ。大丈夫か?」
ようやくやって来たユティに、俺は手にした武具と左手の数字を見せる。
「……良かった。本当に……良かった」
まるで自分のことのように喜び、涙で瞳を輝かせている。
が、その顔は次第に赤くなっていった。
「そ、それで……私の、その……適能なんだけど……えっと」
「おう! バッチリ俺に作用してるぞ!」
「ッ!//」
まるで爆発しそうな勢いで顔を赤くしてしまった。
ユティも適能を複数持っている。
そしてその一つ。ユティが"女神の長剣"を手にした時に言っていた。
『俺にだけ作用する適能があるが、今は効果を発揮していない』と。
俺が適性武具を手にしていなかったために効果を発揮していなかった適能が、今はバッチリ効果を発揮している。
"女神の寵愛"
このユティの適能が、俺個人の全能力を爆発的に上昇させている。
全能力値ではなく、全能力というのが恐ろしい。
その結果が、さっきの俺の"王命"の威力だ。
「お、おい! アンタ達! さっきから俺を無視しないでくれよ! なぁアンタ、アンタは……もしかして」
忘れてた。
「あぁ、ロワだ。ロワ・クローネ」
「っ!? やっぱり、生きてたのか!? "王者のロワ"」
「誰がそんな噂を流したのか知らんが、俺は生きてる。ただ、適性武具を失っていただけだ」
これ以上に、俺がロワ・クローネである証拠は無いだろ? とでも言うように、左手の数字を見せる。
『――――――――――!!』
「「「ッ!?」」」
と、そこに、残っていた最後の天使が、声にも悲鳴にも似た、耳障りな叫び声を上げた。
その声に呼応するように、夜空を埋め尽くす程に大量の魔法陣が出現していく。
「冗談だろ?」
数えきれない程のそれらの魔法陣からは、やはり大量の天使達が出現した。
そして厄介なことに、その魔法陣はこの場所だけではなく、1階層大広間と50階層大広間からの参加者達がいるであろう場所にまで出現しているようだ。
これでは、冒険者達が唯一勝っていたであろう頭数ですら、逆転してしまうな。
なら、冒険者側も次の手を使おう。
俺が、以前持っていた、誰もが知っている"適能"の上位互換。
「『冥界』」
魔力が、この異空間全体にまで広がっていくのが分かった。
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