降臨的冥王(降臨)
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――心臓がざわついた。
急に辺りに静寂が訪れたかと思えば、今度は俺自身の鼓動の音が、やけにうるさく聞こえる。
左腕の痛みよりも、両足の痛みよりも、今はこの鼓動が鬱陶しく思う。
「―――」
「―――い」
「――おい! あんた!」
ハッとした。
気が付けば、知らない冒険者の男に肩を揺すられていた。
「おいあんた! スゲェよ! 異空間主を倒したんだよ!」
そうだ。
俺は無我夢中で、天使達を得意の体術で倒したんだ。
そして――
「見ろよ! 超希少戦利品だぜ? 噂は本当だったのか、コイツは武具だぜ!?」
そう。
俺の目の前には、武具が出現している。
黒く塗り潰された、不気味な武具だ。
「だが、こりゃどんな適性の武具なんだ? 名前が分からねぇぞ?」
そこにある武具に、手を伸ばす冒険者。
しかし
「――うぉ!?」
触れることは叶わず、見えない何かによって阻まれ、その手は弾かれる。
「なん……だ? これ。触れない武具って、どんな代物だこりゃぁ」
確かに、触れない武具なんて、聞いたことは無い。
適性を持っていない武具だって、触ることは出来るし、なんなら装備することも可能だ。
その能力を十分に扱えないだけで、触れないなんてことはあり得ない……はず。
もし、触れることが出来ないのなら、考えられる理由は一つ。
適性を持っていないことは勿論、その武具の力が隔絶した物であり、冒険者の魔力と実力が圧倒的に足りていない。
それくらいしか考えられない。
「あぁ……そうだな。けど……」
その武具に、俺は手を伸ばす。
見た瞬間に、俺には分かったんだ。
この剣は、この武具は――
――俺の武具だ。
しっかりと、俺はソレを掴む。
瞬間、俺の負っていた傷は瞬く間に快復し、失っていた腕すらも再生されていく。
癒えた左腕の先にある左手の甲が、眩しい輝きを放つ。
「あ、あんた……その数字……嘘だろ、おい」
懐かしい。
全身に魔力が充実していく感覚と、ソコにあって当たり前の数字を、俺はようやく取り戻した。
左手の甲に、白く輝く"107"という巨塔記録が印されるのを、俺はただ、黙って見つめていた。
そして俺は
――"冥王の覇剣"という、俺の適性武具を地面から引き抜いた。




