降臨的冥王(双竜)
~
"純竜種"が支配する戦場。
1階層の大広間から転位してきた冒険者達が集まるこの場所では、2体の"純竜種"が思うがままに暴れ回る。
竜の咆哮と、竜の行使する魔法は、数多くの冒険者の命を奪い、数知れずの冒険者達を傷つける。
「くっ、この金竜と銀竜ってやつ、遊んでるんだわ」
フィリアは、見るからに手加減されている純竜種の攻撃に、苛立ちをおぼえるが、それで助かっている冒険者も多いのは事実。
素早く行動を開始する。
「"治癒庭園"!」
フィリアを中心に、癒しの光が波紋となって広がっていく。
その癒しの波に触れた冒険者は、傷と体力が回復していった。
フィリアの広範囲治癒魔法だ。
「戦意の無い者はここから離れなさい! 早く!」
生き残っている冒険者に向けて声を上げながら、純竜種と一定の距離を保ちながらフィリアとエリスは走り回った。
(誰か、誰かいないの? あの異空間主に対抗出来る冒険者は……)
希望は薄い。
1階層の大広間から参加している冒険者は、殆どがまだ経験も実力も不十分な者達が殆どだ、しかし、最も広大な大広間だけあり、大規模転位に参加した冒険者の数は多い。
ならば、居る筈。強力な適性を持ち、才能溢れる冒険者が、どこかに。
それに期待して、フィリアは忙しく視線を動かす。
もし居なければ、自分が純竜種からの攻撃の盾となり、少しでも冒険者を護りながら、助けが来るのを待つしかない。
と、そう考えていた。
フィリアには、攻撃と呼べる手段は持っていなのだから――
「ひゃー。やっぱり"純竜種"って凄いね! お姉ちゃん!」
「こらオトネ! 呑気なこと言ってないで、この竜種、私達で倒すよ」
フィリアの耳に届く、そんな愉快な話し声。
(あれは……)
視線を向けた先にいたのは二人の少女だ。
桃色の髪の、よく似た顔立ち、違いと言える違いは瞳の色のみ。
「それじゃオトネ、まずはあの金色の竜から倒すよ」
「はーい」
少女達は、どこからか取り出した刀を握り、もう片方の手で、お互いの手を取り合った。
「「"疾風迅雷"!!」」
「……うそ」
その光景を遠目から見ていたフィリアが、声を溢す。
二人の少女がその場から姿を消したからだ。
実際に消えた訳ではなく、フィリアが目で捉えることの出来ない程の速度で、少女達は駆けた。
『――――――――――!!!!!』
少しして、金竜の悲鳴にも似た咆哮が木霊した。
体の各所の金の鱗を裂き、幾つもの刀傷が出来上がっている。
「どう? 倒せた? うげぇ! まだぜんっぜん元気じゃん」
「そんな簡単に倒せる訳ないでしょっ純竜種なんだから!」
「ちょ、ちょっとあなた達!」
姿を見せた二人の少女に、フィリアが慌てて声を掛ける。
「ん? お姉さん達は?」
「あれ? お姉さん、どこかで見たかも……」
シズネが、フィリアと共にいるエリスを見て首を捻る。
シズネとオトネが、20階層の旅館"陽射し亭"を訪れた際にエリスと一度出会っているのだが、お互いにその記憶は薄れてしまっている。
「あなた達、あの異空間主を倒すつもり?」
シズネの僅かな疑問を遮るように、フィリアがそう詰め寄る。
「はい。そのつもりですけど、私達では1体ずつしか……」
「1体……。そう、ならもう1体は、私達がなんとか抑えてみるから、その間に倒すことは出来る?」
「お姉さん達が? 私とオトネで1体の竜に集中出来るのなら、確実にあの竜は倒せます。よね? オトネ」
「うん。任せてよ!」
自信満々にそう話す二人に、フィリアは頼もしいと思うが、まだどこかに不安は感じてしまう。
しかし、先ほど見た二人の動きからも、この少女達の実力が並大抵の物でもないことが分かる。
自身の補助魔法を使えば、もしかしたら本当にこの純竜種を倒してくれるのではないだろうか? そう思えた。
だが、それを可能にするにはフィリア自身、二人の少女に補助を行いながら、もう一体の純竜種を抑え込まなければならない。それは至難の技と言える。
――だが。
(やってやる! 私は、フィリアだ! 賢者フィリアだ! 私はロワ君にこの場所を頼まれたんだ!)
決意を決めたフィリアは、小さく頷いた。
「じゃぁお願い! あっちの銀の竜は、私達が必ず抑えるから、あなた達はあの金の竜にだけ集中して」
「わかりました。――オトネ」
「――うん。お姉ちゃん」
互いに手を取り合う少女。
その手を通じて、二人の少女が互いの魔力を交換すると、その魔力はもう一方の手に持つ刀へと流れていく。
「……………うそ」
「綺麗……」
その光景に、またしてもフィリアは驚き、エリスが見惚れてしまう。
少女達の手に持つ"双竜の刀"に、互いに魔力を与えることで二人の適能は発動した。




