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降臨的冥王(渇望)

誤字脱字、ありましたら申し訳ない。

 

  空中に出現した幾つもの魔法陣から、次々と異空間主(レイドエネミー)である天使達が姿を現していく。

 その、どの天使の姿も美しく、神々しくさえあるが……とてもアンバランスな体格をしている。

 身体は純白で手足は細く、体の各所に金色の装飾具を身に付けており、顔と思しき部位には目も鼻も存在しないため、表情は窺えない。


  まぁ、そもそもコイツらに感情が有るのかさえ不明だ。

 もし感情という概念が存在しないのなら、ソレを表すための表情を形作る『顔』は必要無いということかも知れない。


  そんな神々しくも不気味な天使達が合計で7体、俺達の目の前の空中に出現した。

 ついさっき俺が回し蹴りを叩き込んだ奴を合わせると、8体の天使が、槍や剣、盾といったそれぞれ異なる武器を手に出現させながら立ちはだかった。


「もぅ……終わりだ」


 絞りだした声を震わせながら、生き残っている冒険者達が膝をつく。


 滅多に出現しない紫魔法陣。

 転位した先の異空間主を討伐しようと勇みながら大規模転位に参加したものの、いざ異空間主の力を目の当たりにすれば、戦意を喪失してしまったらしい。

 そんな冒険者達がこの場にはまだ多く存在している。


「おい! お前ら、生き残りたいなら戦え!」


「……………」


 返事はない。


 別に屍になっている訳ではないだろうが、もう戦うこと、生きることさえ諦めてしまっているような顔の冒険者達ばかりだ。


「ロワ君っ!」


 勿論、コイツらを鼓舞して一緒に異空間主と戦う方が勝率は少しばかりでも高くなるが、ソレを待ってくれる程に異空間主(コイツら)は優しくない。


 最初に出現した天使を除く7体が、一斉に攻撃を仕掛けてくる。


 なるほど、奥でふんぞりかえっている所を見ると、奴がこの天使達をまとめている存在なのかも知れないな。


「ユティ! 奥の天使がリーダーだ! 奴を倒せ!」


「え? うん、わかったっ! ッ! ――でも」


 奥の天使を狙おうにも、7体の天使達の激しい攻撃がソレを許さない。


 ユティがリーダー格の天使を狙おうとすれば、複数の天使達が一斉襲いかかる。

 いかにユティでも、異空間主である天使達の相手は辛いようだ。

 まして、複数相手となると苦戦は必死か。


「ユティ!」


 くそ!

 ユティの助けに入ってやりたいが、2体の天使が俺を自由にさせてくれない。

 しかも――


「ちくしょう! おい! お前ら! いい加減にしろ! 死にたいのかよ!?」


 この場には、まだ生き残った冒険者が多く存在している。その誰もが戦意を失い茫然と立ちすくむか座り込んでいる。

 コイツらを庇いながらだと、天使の攻撃を避けるか防ぐので精一杯だ。


「……もう終わりだ。俺は、俺達は終わりなんだ」

「大規模転位なんて、参加するんじゃなかった……」


 俺の話なんて、全然聞こえてもいない。


「ッ! お前ら! それでも冒険者かよ――」


「――ロワ君!」


 ユティの焦燥が込められた声を聞き、反射的に振り返る。


 そして、俺の視界に入ってきた光景は

 1体の天使が、上段に構えた金色に輝く長剣を勢い良く俺の頭目掛けて振り下ろす姿だった。


 すぐ後ろにはぶつくさ念仏を唱えている冒険者。

 避ければこの冒険者に、この長剣は慈悲無く振り下ろされるだろう。

 なんて考えていながら、俺は反射的に魔力を込めた左腕を頭上に差し出す。


「ッ! ぐぅぅうぅうう!」


 激痛。

 耐え難い痛みと熱が、左腕を通じて全身に伝わってくる。

 天使の振り下ろした長剣は、魔力を込めた俺の左腕を容易く貫通していく。


 次に、俺は右腕をソコに差し出した。


 またもや、右腕に激しい痛みと熱を感じるが、さっき程ではない。


 左肘から先を失った甲斐あってか、その長剣は右腕の骨を貫通する事は叶わず、途中で停止した。


「――あぁ……ロワ君!」


 そんな俺の状況に、ユティが目の前の敵を放ってこちらへ駆けようとするが――


「ッ! きゃっ!」


 少しの隙でも異空間主は見逃さない。

 別の天使の攻撃が直撃し、手痛いダメージを負うユティ。

 体勢を崩してしまったユティに、多くの天使達が今にも追撃を行う構えだ。


 絶体絶命……か?


 前にも、似たような状況があった気がするな。


 そう、確か……ユティを初めて巨搭(アベル)連れて行った時。運悪く踏み込んだ異階層(ワンダリング)大広間(スクウェア)での戦闘だ。

 あの時も俺は、手痛い負傷をして、絶対に逃げられない状況だったな。

 違うのは、俺の後ろにいるのが可愛いユティではなく、全くどうでもいい冒険者のおっさんってことだな。


 ――あとは


「俺の魔力量があの時とは比べ者にならないって所か」


 更に右腕に魔力を流し込む。


 そして、右腕の筋肉で、天使の長剣を挟み込む。


 心なしか、天使の顔? のような物が焦っている素振りを見せた気がしたが、この天使から表情を読み取ることはできない。


「動かねぇよな? 放してみたらどうだ?」


 天使からの返事はなく、腕に穿たれた長剣がギシギシと音を立てる。

 どうやら、手放す気はないらしい。


 更に、視界の端でユティが複数の天使達から攻撃を受け、次々と体に傷を負っていく姿が見える。

 俺の前方からはもう1体の天使が、この状況を見て迫って来ているのが分かった。


 ユティが傷つく姿が目に入ったからだろうか?


 俺は無我夢中で、目の前に天使に回し蹴りを叩き込む。

 腕に刺さった長剣は激しい音と共に折れ、天使は勢い良く吹き飛び、こちらに迫って来ていた天使を捲き込みながら倒れ転げる。


 一息も付かずに俺は、軸足に魔力を込めて思い切り地面を蹴る。

 後方に爆音を残しながら、倒れた天使達に向かって跳躍した。


 そして。


「死ね」


 ――天使達の顔面を踏み潰した。


 爆音と振動。そして激しい土埃を舞い上げながら、俺は天使達の顔面を間違いなく踏み潰し、そしてどうやら、この一撃は異空間主である天使を絶命に至らしめる程の物だったらしい。


 砂埃に混じり、淡い光となって、2体の天使達は消滅していく。


 これまで、異空間主を討伐した者はていない筈だが、まさかこうもあっさり討伐してしまうとは。


 いや、違う。


 左腕を失い、右腕も深手を負った。

 そして、今の衝撃に俺自身の両足も耐え切れなかったようだ。

 まともに立つことさえ困難な程に、俺の両足はぐちゃぐちゃだ。


 残った天使達の相手をするのは不可能に近い。


 ここから先を生き抜くのは無理か――
















 そう思った。
















 天使達が光となって消えた場所に出現した


 一振りの、漆黒の長剣を目にするまでは。


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